エバーメクチンとイベルメクチン

エバーメクチンは、大村教授らによって、日本の土壌から分離された放線菌(Streptomyces avermitilis)により生産された抗生物質の一つです。

エバーメクチンの優れた点として、寄生虫などを麻痺させて殺す性質を持っていますが、人の細胞にはあまり影響がないため、人体には比較的無害で寄生虫のみに作用してくれます1)

イベルメクチンは、エバーメクチンの効果を高め、副作用を軽減する目的で開発されたものです。1993 年にフランスで糞線虫症治療薬として初めて承認され、日本国内においては、関連学会からの要望により臨床試験を経て、2002年に発売されています。また、糞線虫症治療薬以外としても、ダニの一種であるヒゼンダニによって引き起こされる皮膚疾患の疥癬にも効果が認められ、疥癬の治療薬としても国内外で追加承認されています2)

 

1) Proc Natl Acad Sci U S A. 1992 May 1;89(9):4168-72.

2) ストロメクトール錠 インタビューフォーム

 

イベルメクチンの効果と作用機序、副作用

今回のノーベル賞受賞にあたり、大村智教授が評価されている点として、イベルメクチンがアフリカ等でオンコセルカ症という疾患の治療薬として用いられ、多くの人の失明の危機を救った事が挙げられています。

オンコセルカ症とは、寄生虫の感染によって、皮膚に異常が起き、重症化すると失明するケースもある疾患で、世界的な失明原因の第2位とされています。オンコセルカ症による皮膚炎は軽度の感染においては,激しいかゆみがあり、二次性の表皮剥離や潰瘍、リンパ節腫脹がみられます。眼の疾患は軽度の視覚障害から完全な失明まであります3)

WHOの報告によるとアフリカ地域に住む1億人以上の人たちがこの疾患の危機に晒されていました。このオンコセルカ症に対して、現在は年1回のイベルメクチンの集団投与により、ほぼ制圧されるという見解が発表されています4)

イベルメクチンの作用機序は、無脊椎動物の神経・筋細胞に存在するグルタミン酸作動性Cl- チャンネルに選択的に結合し、Cl- に対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極が生じ、寄生虫が麻痺を起こし、死に至るとされてます。

哺乳類ではグルタミン酸作動性Cl- チャンネルの存在が報告されていないこと、哺乳類の脳の特異的な結合部位に対するイベルメクチンの親和性が線虫に比べ約100倍低く、さらに薬剤が血液-脳関門を容易には通過することができないという点から、人におていは安全性が確保されているようです。

寄生虫に対して絶大な効果を示しているイベルメクチンですが、副作用はあまり問題となっておりません。主な副作用としては肝機能異常や悪心、嘔吐などがありますが、頻度としてはあまり高くないようです5)

 

3) メルクマニュアル18版 日本語版

4) Nat Rev Microbiol. 2004 Dec;2(12):984-9.

5) ストロメクトール錠 添付文書

 

イベルメクチンの製薬会社、販売状況と使用方法

イベルメクチンの販売について、海外では、米メルク社がメクチザンという商品名で販売しており、日本では2002年12月より、万有製薬株式会社(現 MSD 株式会社)にて販売が開始されました。その後、2006年4月よりマルホ株式会社に販売会社が移管され、ストロメクトールという商品名でイベルメクチンが販売されています。

 

効能・効果と用法・用量は以下の通りです5)

1.腸管糞線虫症

通常、イベルメクチンとして体重 1 kg当たり約200μgを 2 週間間隔で 2 回経口投与する。下記の表に患者体重毎の 1 回当たりの投与量を示した。本剤は水とともに服用する。

 

2.疥癬

通常、イベルメクチンとして体重 1 kg当たり約200μgを 1 回経口投与する。下記の表に患者体重毎の 1 回当たりの投与量を示した。本剤は水とともに服用する。

 

患者体重毎の 1 回当たりの投与量

体重(kg)  3 mg錠数
15-24 1 錠
25-35  2 錠
36-50 3 錠
51-65  4 錠
66-79  5 錠
≧80 約200μg/kg

 

1の腸管糞線虫症は、糞線虫という寄生虫に感染した場合におこる疾患で、症状としては、皮膚症状や食欲不振、腹部痛、下痢、悪心、嘔吐などがあります3)

 

2の疥癬(かいせん)はヒセンダニの寄生によっておこる疾患で、主な症状は疥癬トンネルや赤いブツブツ(丘疹、結節)などです6)

 

国内の臨床試験では、糞線虫陽性患者50例を対象に、イベルメクチン約200μg/kgを 2 週間間隔で2 回投与した場合の投与 4 週間後の駆虫率は98.0%(49/50)であったとされています5)

6) 公益社団法人日本皮膚科学会 皮膚科Q&A