はじめに ~多発性硬化症:MS(たはつせいこうかしょう)とは~

多発性硬化症:MSたはつせいこうかしょう multiple sclerosis )は、脳や脊髄のあちこちに硬い病巣がみられ、様々な神経の障害が起こる疾患です。

通常、神経細胞から出された情報が神経線維を伝わっていく際、神経線維は電線のように絶縁体のカバーで覆われていますが、多発性硬化症(MS)はその絶縁体が壊れるため神経伝達や指令がうまくいかなくなり、視覚障害や運動障害など様々な障害が起こります。

発症する年齢は20代~40代の若年層に多く、平均30歳前後に発症します。
男性より女性に多い疾患のため、特に妊娠、出産の時期には注意が必要です。
多発性硬化症(MS)は厚生労働省が指定する「特定疾患」の1つとされています。
 

多発性硬化症の原因は?

多発性硬化症(MS)は免疫の異常による「自己免疫疾患」と考えられています。
自己免疫疾患とは、本来自分の体を守るために備わっている免疫機能が異常をきたし、自分自身の細胞や組織を敵とみなして攻撃をしてしまいます。

MSは遺伝性はなく、きっかけの多くはウイルスや環境要因などが原因で発症すると言われています。
 

多発性硬化症の症状は?

脳、脊髄、視神経などの病巣により症状は異なりますが、主に運動障害、感覚障害、視力障害、精神的な障害、排尿、排便障害などが起こります。

主な症状として
◇ふらつき、手足に力が入らない
◇視力の低下、視野の異常
◇目の奥の痛み
◇手足のしびれ、硬直、けいれん
◇まひ、感覚の低下
◇運動、歩行障害
◇頻尿、残尿感
尿が出ない、便秘
◇疲れやすい
◇体温が上がると症状が出る、悪化する

などが多く見られます。
MSになると多くの場合、症状が出る「再発」と症状が治まる「寛解(かんかい)」を繰り返すため、良くなったり悪くなったりします。


 

多発性硬化症による妊娠・出産・赤ちゃんへの影響は少ないとされています

妊娠、出産への影響

妊娠、出産においての大切なことは、多発性硬化症の再発がなく症状が安定していることが原則です。

再発は一般に妊娠中は少なくなりますが、産褥期(出産後2~3ヶ月)は再発のリスクは高まります。
出産後3~6ヵ月で妊娠前と同程度に戻ります。
 

赤ちゃんへの影響

遺伝性はないため、赤ちゃんがMSになることはありません。
MSが流産や死産、奇形など、直接の原因になるという危険性もないと言われています。

ただし使っている薬によっては赤ちゃんに影響があるものもあり、また産後に再発した場合、身体の障害により子育てに影響が出る場合があるため、事前に医師とよく話し合うことが大切です。

 

妊娠中の治療法は?

妊娠、授乳中には基本的に薬は使用しませんが、症状がある場合には炎症を抑える作用のある副腎皮質ステロイドが使われます。
副腎皮質ステロイドのうち、低~中程度のプレドニゾンは胎児への影響が少なく安全とされています。

症状が急に出る再発期には、ステロイド剤を点滴注射する「ステロイドパルス療法」が主に行われます。
薬の使用や治療法は、状態により医師とよく相談しながら行います。
 

薬による母乳への影響は?

産後にも時々ステロイド剤が必要な場合でも、少量であれば乳汁移行も少ないといわれています。
ただし、一時的に大量の服用が必要な時は粉ミルクに変更する場合があります。
母乳でなくとも赤ちゃんは質の良い粉ミルクでも健やかに成長するため、状況を見て変えていきましょう。
 

MSの妊娠中、産後の注意は?

再発を防ぎながら、普通に生活できるよう、以下のことに気を付けましょう。

  • 貧血予防のために処方通りの鉄剤の服用をする
  • 歩行困難がある場合は体重の増えすぎに気を付ける
  • 尿路感染症にならないようにする
  • あらゆる感染症の予防(うがい、手洗いの徹底)
  • 激しい運動や熱いお風呂による体温上昇に気を付ける
  • 過労、ストレスをためないようリラックスする

     

おわりに

多発性硬化症(MS)は指定難病とされ、根本的な治療法はまだ確立されていませんが、決して妊娠、出産できないことはありません。
ただし、再発しやすい病気のため、日頃の注意点を意識して病気と上手に付き合っていくことが大切になります。

image by Photo AC
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