はじめに ~甲状腺(こうじょうせん)の役割とは~

甲状腺は、のどぼとけの下にある内分泌器官で、全身の新陳代謝を促すホルモン「甲状腺ホルモン」を分泌しています。
甲状腺ホルモンは、栄養素をエネルギーに変えたり、胎児が成長するために必要な成長ホルモンを分泌するなど大切な役目を果たしていますが、甲状腺ホルモンの分泌は、「過剰でも不足でも良くない」ため、一定に保たれるようになっています。
 

 

甲状腺の病気は妊娠と合併することが多い

甲状腺の疾患として代表的なものが「バセドウ病」 と 「橋本病」です、
甲状腺疾患は20代~30代の若い女性に発症することが多く、自分の細胞を攻撃してしまう「自己免疫性疾患」の代表的なものです。

男性にも発症しますが、「甲状腺疾患合併妊娠」(妊娠中に甲状腺疾患を合併する)を起こすことも多いため、女性には特に注意が必要な病気です。

 

「バセドウ病」と「橋本病」の違いは?

同じ甲状腺の代表的な疾患である 「バセドウ病」と「橋本病」には原因や症状に違いがあります。
 

バセドウ病

バセドウ病=甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)といいます。
バセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され「新陳代謝が促進され過ぎている」状態です。
 

橋本病

橋本病=甲状腺機能低下(こうじょうせんきのうていか)といいます。
橋本病は、甲状腺ホルモンの分泌が低下し「新陳代謝が極端に悪くなる」状態です。

 

主な症状

バセドウ病 橋本病
甲状腺の腫れ 甲状腺の腫れ
疲れやすい 疲れやすい
イライラ、落ち着かない 気分が沈みがち、無気力
下痢ぎみ 便秘
動悸、高血圧 性欲減退
体重減少 食欲がないのに体重増加
不眠 皮膚の乾燥
手足の震え 筋力低下、手足のこわばり
眼球突出 顔のむくみ
多汗、熱さに敏感 寒がり、寒さに敏感


※上記が主な症状で、これらすべての症状が出るとは限らず年齢や重症度などによって症状は様々です。

 

病状の過程と妊娠、出産への影響は?

バセドウ病

バセドウ病は、妊娠中は普段より多くの甲状腺ホルモンを必要とするため、妊娠中の発症はあまり見られません。
妊娠中の経過として、軽度の場合は症状が改善することがあり、産後にまた悪化するという特徴があります。
治療せず放置した場合、甲状腺機能亢進症が急激に増悪し、母子共に深刻な合併症または死亡を引き起こすことがあります。
 

橋本病

橋本病は、症状が妊娠中の一般的な症状と似ているため見落とされがちですが、妊婦の50人に1人は甲状腺機能低下症になります。
妊娠中の経過は、妊娠初期に一時悪化し、妊娠中期~後期に軽快し、産後にまた悪化するという傾向があります。 

甲状腺ホルモンは胎児の脳の中枢神経系の発育にとても重要なので、甲状腺ホルモンが不足したまま妊娠すると、障害などをもって生まれる可能性があります。

「バセドウ病」も「橋本病」も、しっかりとしたホルモン分泌の管理をしないと、早産、流産、死産、胎児の発育不良、低出生体重児、脳障害などになる可能性があるため、妊娠中は特に注意が必要です。

 

 

妊娠中の治療法は?

内分泌専門医(甲状腺専門医)と産科医に相談し、診断は定期的に血液検査を行います。

バセドウ病と橋本病の治療は、共に薬物療法が中心になり、血液中の甲状腺ホルモンの量をコントロールしていきます。
通常の治療方法には甲状腺摘出術や放射線療法などがありますが、妊娠中の治療は原則として手術などは行わず薬物療法が基本となります。

バセドウ病→ 甲状腺ホルモンを抑える薬を服用します。

橋本病 → 甲状腺ホルモンを補充する薬を服用します。

 

診断の落とし穴に注意

稀に甲状腺ホルモンの濃度が変わることがあります。
橋本病にバセドウ病のような症状(体重減少、多汗、下痢など)が現れることがあり、逆にバセドウ病に橋本病のような症状(体重増加、無気力、寒がり)などが現れる場合があります。

その際、誤った診断で誤った薬が処方されてしまうケースが実際にあるため、「症状が逆転する可能性がある」ことを良く理解しておく必要があります。
そのためにも必ず「甲状腺の専門医」を受診するようにしましょう。

治療は長期に渡ることがあるため、自己判断で薬の服用を止めたりせず継続することが重要です。
薬物療法だけでは症状が改善されない場合の治療法については、年齢や状態によるため、医師とよく相談のうえで行います。
 

おわりに

甲状腺疾患については、妊娠中も治療法は確立されているため、甲状線ホルモン剤の服用を欠かさないことです。
また過労、ストレスを最小限にし、アルコールやタバコは避けましょう。
栄養価の高い食事と安静を保ち、妊娠や出産に影響させないためにも医師の指示通りに治療を継続することが大切です。