嘔吐と下痢は、新生児から小児までよく見られる症状の一つですが、「乳幼児嘔吐下痢症(にゅうようじおうとげりしょう)」とは、ウイルスや細菌などが原因で、嘔吐と下痢をはじめとする全身症状を伴う「感染性胃腸炎」です。
特に乳幼児はウイルス性のものによくかかり、激しい嘔吐と下痢を繰り返すため、通称「吐き下し」と呼ばれていますが、進行も早く重症化することもあるため、症状や注意点を知っておくことが大切です。
乳幼児嘔吐下痢症の原因から対処法までの大切なポイントを解説します。
乳幼児嘔吐下痢症の主な原因
乳幼児嘔吐下痢症は、主にウィルス性と細菌性によるものに分かれます。
ウイルス性
▸ノロウイルス(秋~冬)
▸ロタウイルス(冬~春先)
▸アデノウイルス(通年制、特に夏)
細菌性
サルモネラ、腸炎ビブリオ、カンピロバクター、病原性大腸菌などが原因の胃腸炎で、主に夏場に見られ、夏の食中毒の原因は主にこれらによるものです。
嘔吐下痢症は、細菌による場合は夏場に多いのに対し、ウイルスによる場合は冬場に多く、乳幼児に流行するのが特徴です。
特に1歳以下の乳幼児ではウイルス性が圧倒的に多いため、一般的にウイルス性胃腸炎を乳幼児嘔吐下痢症と呼んでいます。
乳幼児嘔吐下痢症の感染経路は、経口感染・空気感染・接触感染
乳幼児嘔吐下痢症の感染は以下の経路をたどります。
■経口感染(糞口感染)
汚染された食物や便中に排出される病原体が口の中に入って感染。病原体を保有する食品を、生または不十分な加熱処理で食べた場合や、ウイルスが付いた手で調理した場合。また、ウイルスが含まれる使用済みおむつや便器などからも感染します。
■空気感染
乾燥した便や吐物中から、空中に浮遊したウィルス粒子を吸い込んだ場合も感染します。症状がなくなった後も2~3週間は糞便中にウィルスを放出し続けます。
■接触感染
ウイルスで汚染された手指、衣服、物品等を触り、接触後に手指や物を舐めるなどにより、口からウイルスが入り感染します。
乳幼児嘔吐下痢症の特徴
■嘔吐については、乳幼児は胃の入り口の噴門(ふんもん)の筋肉が未発達で、胃の中のものが出てきやすいため、大人より吐きやすい状態です。大泣きしたり、咳き込んだり、ちょっと食べすぎただけでも吐くことがよくあります。
吐いた後はケロッとしていて元気なこともよくあり、その場合はあまり心配は要りませが、12時間以上、頻回に吐き続ける場合には受診しましょう。
■下痢については、元々乳児の便は、元気な時でも柔らかくゆるいのが普通で、便の状態には個人差もあります。
便が固まらず水様や泥状になったものを下痢といいますが、乳児の場合は、回数よりも便の色や臭いなどの状態を良く観察することが大切です。
乳幼児嘔吐下痢症の主な症状
乳幼児嘔吐下痢症の主な症状には以下のようなものがあります。
●元気だった子どもが突然吐き始める
●嘔吐を何度も繰り返し、続いて下痢も始まる
●嘔吐だけ、下痢だけの場合もある
●熱が出ないことが多く、出ても38度前後で高熱にならないことが多い
●便の異常。血便やクリーム色や白っぽい水便。酸っぱい臭い
●脱水症になりやすい
●嘔吐や下痢は通常、比較的短期間で治まりますが、最も心配なのは重度の脱水症状を起こすことです。
特に乳幼児にとって脱水症は命に危険が及ぶことが多いため、注意が必要です。
脱水症状を見極めるポイント
元々子どもは、体重当たりの水分必要量が多く、呼気や皮膚から蒸発する目に見えない水分(不感蒸泄量:ふかんじょうせつりょう)も、尿量も大人より多いため、脱水になりやすいのです。
また、嘔吐で上から、下痢で下から水分が失われるため、たちまち脱水症になってしまいます。そこに発熱が加わる場合は、熱による汗で、脱水症が加速します。
脱水症状が重症化すると大変危険なため、以下のような脱水の兆候や症状を知っておくことが大切です。
●大泉門の陥没(頭の前部分の柔らかい所がへこむ)
●不機嫌
●唇、皮膚の乾燥
●皮膚の張りの低下(皮膚をつまんで引っ張った時につまんだ跡がしわになり長く残る)
●頻脈
これらが見られた場合、対処が遅れるとショック状態まで移行することがあるため、水分摂取をしつつ、必要に応じて早めに小児科などに相談するようにしましょう。
脱水症状を起こしている場合は点滴が必要な場合もあり、重症化して入院が必要になることもあります。
特に生後6か月未満の乳児は要注意です。
乳幼児嘔吐下痢症での受診のポイント
以下のような症状がある場合は、嘔吐下痢症を含め、重症化や他の病気の可能性もあるため、早めに小児科などに受診するようにしてください。
●高熱
●顔色、機嫌が悪い
●腹痛を訴える
●水分を与えても吐く
●おしっこの量が減る、出ない
●便の色の異常。血が混じっている、または白色や黒
●ぐったりしている
●手足が冷たい
●脱水症状
受診の際に医師に伝えること
小児科での受診の際は以下のような点は医師に伝えるようにしましょう。
▸吐いたものはどんなものか
▸何回位吐いたか
▸機嫌や食欲、その他の状態
▸下痢の際は便の様子を口頭で伝えるより、オムツごとしっかりビニール袋に入れて持参する
子どもの状態を正確に医師に伝えることが大切です。
そのためには、日頃から子どもの様子をメモしておくとよいでしょう。
乳幼児嘔吐下痢症の治療法・病院での対処法
症状が重症化する前に小児科を受診しましょう。
病院での対処法は、細菌感染の場合は抗生物質を使用した治療となりますが、ウイルス感染の場合は抗生物質は効かないため、整腸剤や吐き気止め、高熱がある場合は解熱剤を処方します。
吐き続けたり、下痢がひどく、水分もほとんど取れない場合には点滴をします。ひどい場合は入院が必要になることもあります。
薬もすぐに吐いてしまう場合は、吐き止めの座薬などを使いながら嘔吐が治まるのを待ちます。
ホームケアのポイントと注意点
市販薬をむやみに使わない
嘔吐も下痢も、身体の中に入ってきた病原体を体外へ追い出そうとするための反応ですが、むやみに市販の下痢止めや吐き気止めを使用するのはやめましょう。
乳幼児の薬の使用は医師の指示に従うようにしましょう。
吐いた後すぐには何も与えない
吐いた後、最低1~2時間は水分も何も与えず様子を見ましょう。吐いた後は胃腸を休ませることが必要です。
吐いてしまったからと無理に水分を与えても、どちらにせよすぐに吐いてしまいます。飲んでは吐いてを繰り返すことになり、体力も消耗するため、吐いた後は一切何も与えない時間が必要です。
経口補水液を利用もオススメです
乳幼児には、スポーツドリンクなど糖分の多いものは、余計に下痢になることがあるため注意しましょう。
嘔吐・下痢が激しく、十分な水分補給ができないときは、OS-1(オーエスワン)などの経口補水液を利用しましょう。OS-1は、電解質と糖質の配合バランスを考えた経口補水液で、下痢、嘔吐、発熱を伴う脱水状態には非常に効果的です。
乳児への1日の量は、体重1kg当たり30~50mlとされています。スプーン1杯から始めて、少しずつゆっくり与えましょう。
■自宅でも簡単に自家製の経口補水液が作れます。
●水 1,000ml(1リットル)
●塩 1.5〜3グラム(小さじ3分の1(理想は小さじ2分の1)
●砂糖 20〜40グラム(大さじ4杯+小さじ1杯)
以上の材料を混ぜてしっかり溶かしましょう。レモンなどを混ぜると飲みやすいでしょう。
自家製の経口補水液は衛生上、長持ちはしないのでその日の分だけ作って飲むようにしましょう。
乳児の場合:母乳やミルクはあげてもいいの?
■母乳はそのまま続けて大丈夫です。ただし母乳も少量ずつ、頻回に分けて与えるのが原則です。
嘔吐・下痢が治まってきたら、通常通り欲しがるだけ飲ませて構いません。
■ミルクの場合は、嘔吐下痢の最中はいつもの濃さの半分に薄めて与えた方がよいでしょう。ただし薄めたとしても量が多ければ意味がないため、少量ずつ頻回に分けて与えるのが原則です。
吐き気がなく下痢がよくなってきたら、ミルクの濃さを1/2→2/3→普通へと戻していきましょう。
食べものは水分が十分取れるようになってから
吐き気が治まって食欲があるようなら、少量の水分を少しずつ与えましょう。
食べ物は水分が十分取れるようになってから、一度にたくさんではなく、柔らかくて消化の良いものを少量ずつから与えていきましょう。
離乳食が始まっている場合は、おかゆを中心にしながら栄養を摂らせていきましょう。
身の回りのケアについて
嘔吐のケア
嘔吐があったときは以下のようなケアに気をつけましょう。
●衣服を緩めて楽にさせる
●吐いたものを気管に詰まらせないように横向きに寝かせる
●うがいができるなら口をすすがせ、口内をきれいに
●赤ちゃんの場合は口にそっと指を入れて吐いたものを取り除いてあげる
●口や首の周りは絞ったガーゼなどで拭いてきれいに
●臭いで吐き気を誘発させない様に衣服が汚れたら着替えさせる
●吐いたものはすぐに処理する
下痢のケア
下痢があるときは以下のようなケアに気をつけましょう。
●頻回の下痢の時はなるべくおむつをすぐ取り換える
●おむつかぶれになりやすいため注意。お尻をこすって肌に刺激を与えないようにする
●下痢の後はシャワーや座浴でお尻を洗い流してしっかり乾燥させる
●おむつはビニール袋に入れてしっかり口を閉じて処理する
●おむつ交換の後はママは石鹸でしっかり手を洗い、うがいもする
●ミルクの作り置きを冷蔵庫に保管することはせず、ミルクは飲む前に作り哺乳瓶は必ず消毒したものを使用する(特に夏は雑菌が繁殖しやすく、更なる下痢の原因になります)
幼稚園・保育園・学校の登園・登校について
乳幼児嘔吐下痢症は、学校感染症の第三種感染症で、「条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病」の一つとされています。
登園、登校の目安は「嘔吐・下痢等の症状が治まり、普段の食事ができること」とされています。
ただし、症状回復後も感染力があり、特に乳幼児は回復に時間がかかることも考慮し、保育園では、前日に嘔吐していた子どもの登園は控えてもらうことがあります。
詳しくは、厚生労働省「保育所における感染症対策ガイドライン」も参考にしてみてください。
嘔吐下痢症の感染期間は、症状の有る時期がウイルスの排泄期間となり、また回復後も特に便からは2~3週間程ウイルスが排出されるため、治ったと思っても油断は禁物です。
さいごに ~子どもの全身状態の観察が大切です~
乳幼児の嘔吐と下痢には、感染性胃腸炎の他にも、牛乳アレルギーや消化管の病気をはじめ、様々な病気が隠れていることもあるため、子どもの全身状態を良く見ることが大切です。
子どもは乳幼児嘔吐下痢症になりやすいため、日頃から嘔吐と下痢をした時は正しいホームケアが鍵となります。水分補給や身の回りのケアなど正しい対処をしてあげましょう。