はじめに
ヒトメタニューモウイルス(Human metapneumovirus:hMPV)は、あまり聞きなれないウイルスの名前だと思いますが、RSウイルスと並び、主に乳幼児から小児にかかる風邪などの呼吸器症状を引き起こす原因となるウイルスです。
一度の感染では終生免疫ができず、乳幼児期においても再感染を頻繁に起こすとされ、特に低年齢ほど重症化しやすくなるため、基礎知識を知っておくことが大切です。
ヒトメタニューモウイルス感染症の原因から対処法まで解説します。
ヒトメタニューモウイルスの特徴
ヒトメタニューモウイルス(human metapneumovirus:hMPV)は、RSウイルスに良く似たウイルスで、2001年にオランダの研究グループによって発見されました。これは新しいウイルスではなく、呼吸器症状を引き起こすウイルスとして以前から世界中に存在していたとされていますが、ウイルスの分離が難しかったため発見が遅れたといわれています。
呼吸器感染症の原因ウイルスとしてよく知られているウイルスは、RSウイルスをはじめ、パラインフルエンザウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス等があげられますが、これらが原因でない呼吸器感染症の場合は、ヒトメタニューモウイルスの可能性を疑います。
このウイルスの発見により、原因不明の呼吸器感染症においての約半分近くが明らかになったと推測されています。
ヒトメタニューモウイルスの流行時期
ヒトメタニューモウイルス感染症は、年間を通して見られますが、特に3~6月に流行のピークを迎えます。
類似しているRSウイルスが流行するのは9月~3月のため、RSウイルスが流行終えた後の、春先から梅雨の時期に流行します。
ヒトメタニューモウイルスのかかりやすい年齢
ヒトメタニューモウイルス感染症の多くは、生後6ヶ月頃から感染がはじまり、2歳までには約50%が感染し、遅くとも10歳までにはほぼ全員が感染するとされています。
小児の呼吸器感染症の中で、5~10%はヒトメタニューモウイルスが原因と言われており、乳幼児期においても再感染を頻繁に起こすとされています。
ヒトメタニューモウイルスの大人の感染について
ヒトメタニューモウイルスは感染力が強く、成人にも感染します。現在成人の呼吸器感染症の2~4%はヒトメタニューモウイルスが原因と言われています。
症状は感染の回数が増えるにつれ軽症化していき、健康な成人では感染しても症状が出ない「不顕性感染」で済むこともありますが、免疫力が落ちている人や、高齢者施設などでは集団感染が起こり、施設での二次感染率は20~50%に至ると言われ、大人にも重要なウイルスとされています。
ヒトメタニューモウイルスの感染経路
ヒトメタニューモウイルス感染症は、主に飛沫感染、接触感染で、感染は以下の経路をたどります。
・飛沫感染:患者の咳やくしゃみなどのしぶきに含まれるウイルスを吸い込むことにより感染します。
・接触感染:主にウイルスが付いた手指を介して、口や鼻、眼に触れることにより感染します。
ヒトメタニューモウイルスの潜伏期間と感染期間
潜伏期間とは、ウイルスが体内で活動し、ヒトメタニューモウイルス感染症の症状が出るまでの期間のことです。
ヒトメタニューモウイルス感染症は、4日~6日の潜伏期間の後発症します。
感染期間は、発症からウイルスを排泄している期間で、7~14日間とされています。症状が消えた後もウイルス排泄期間は2次感染で人にうつります。
ヒトメタニューモウイルスの症状について
主な症状と経過
発熱、鼻水、咳など、鼻から咽頭までの上気道炎の症状から始まり、主に以下の症状が見られます。
・発熱が4~5日続く
・咳が1週間ほど続く
・鼻水がひどい
・頭痛、嘔吐下痢を伴うこともある
・通常は1週間程度で回復する
ヒトメタニューモウイルスは、RSウイルスとよく似ていますが、RSウイルスに比べて高熱で発熱期間が長いことが特徴とされ、インフルエンザのような高熱の持続と、RSウイルスのような呼吸器症状が一緒になった症状といえます。
ヒトメタニューモウイルスの注意すべき合併症について
ヒトメタニューモウイルスは重症化すると、以下の症状が見られます。
・高熱が4日以上続く
・喘鳴(呼吸時にゼーゼー、ヒューヒューと音がする)
・呼吸困難
・肺側の気管の下気道まで症状が重くなり、合併症を伴うことがある
注意すべき合併症
ヒトメタニューモウイルスは以下の合併症があげられます。
・喘息様気管支炎
・細気管支炎
・肺炎
・脳炎、脳症
・中耳炎
などがあります。またヒトメタニューモウイルス感染症と同時に細菌感染を起こすことも少なくありません。
熱が4日以上続く場合は早めに再受診しましょう。
RSウイルスとの違い
ヒトメタニューモウイルスはRSウイルスと似ていますが、以下の違いがあります。
【ヒトメタニューモウイルス】
初感染の年齢:2歳までに50%、10歳までに100%
流行時期:3月~6月
潜伏期間:4日~6日
ウイルス排泄期間:7~14日間
【RSウイルス】
初感染の年齢:1歳までに50%、2歳までに100%
流行時期:9月~3月
潜伏期間:2~8日(4~6日)
ウイルス排泄期間:7~21日間
このようにヒトメタニューモウイルスは、RSウイルスに一度感染した後に少し遅れて初感染を受けるとされています。
ヒトメタニューモウイルスの診断方法
ヒトメタニューモウイルスは、ウイルスの遺伝子や病状もRSウイルスに似ており、症状だけでは診断できないため、迅速検査キットで診断します。RSウイルスでもなくインフルエンザや細菌性のマイコプラズマでもなく、咳が中心の風邪症状の場合、ヒトメタニューモウイルスを疑い検査します。
鼻咽頭を細い綿棒でぬぐい、5~15分程度で鑑別できます。
ヒトメタニューモウイルスの迅速キットは、2014年から保険適応になりましたが、適応の条件として「ヒトメタニューモウイルス感染症が疑われる6歳未満の患者であって、画像診断により肺炎が強く疑われる患者」の検査に対して保健適応になります。
留意点については医師に確認しましょう。
ヒトメタニューモウイルスの治療方法・病院での対処法
ヒトメタニューモウイルスの治療法は、特効薬はなく、基本的には対症療法となり、呼吸困難と脱水に注意しながらの対処となります。
咳止めや痰を出しやすくする薬(去痰薬)や気管支を広げる薬(気管支拡張薬)の使用などで症状を和らげます。呼吸困難の場合は、酸素投入や人工呼吸器で呼吸を助ける対応をします。
ミルクの飲みが悪い時は点滴で水分補給をし、病状の程度により入院となることがあります。
また、他の細菌による二次感染が見られる場合は抗生物質などを使用することもあります。
ホームケアのポイントと注意点
軽症で水分や栄養摂取が可能な場合は、内服薬で経過観察します。
乳幼児には市販の薬の使用はしないようにし、薬の使用は医師の指示に従いましょう。
自宅では安静にしながら、以下の点に注意しましょう。
・こまめに水分補給をする
・室温は一定にし、湿度を50~60%に保つ
・咳で苦しい時は、上体を起こしたり縦抱きや背中をさするなど楽な姿勢にさせる
・お風呂は熱があるときは避ける
・ほこりやハウスダストの除去、禁煙
ヒトメタニューモウイルの予防方法
ヒトメタニューモウイルスに対するワクチンはありません。2次感染を予防するには飛沫感染と接触感染の予防策を徹底することが重要です。
日頃から、正しい手洗いとうがいを実行しましょう。特にウイルスは手を介して感染するため、手洗いは石鹸で指から手首までを30秒以上かけて丁寧に洗い、流水でしっかり流して乾燥させることが大切です。
また流行時には子どもが集まる場所や人ごみには乳幼児をなるべく連れて行かないようにし、マスクを着用するなどして感染を防ぐことが必要です。
感染者がいる家庭では、ウイルス排泄期間は2週間以上ある為、症状が治まった後も感染予防に努めることが必要です。
幼稚園・保育園・学校の登園・登校について
まず、医師よりヒトメタニューモウイルス感染症と診断された場合は、速やかに園・学校へ連絡してください。
ヒトメタニューモウイルスは、学校感染症の第三種感染症で、必ず出席停止を行う べきものではないとされていますが、「条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病」の一つとされています。
学校の登校基準
登校の基準は「発熱、咳などの症状が安定し、全身状態の良い者は登校可能だが、手洗いを励行する」とされています。
保育所の登園基準
保育所の場合の登園の基準は「重篤な呼吸器症状が消失し、全身状態が良いこと」とされています。
特に保育所では、学校感染症対策にプラスして、乳幼児は児童・生徒等と比較して抵抗力が弱いこと、手洗いなどが十分に行えないなど、乳幼児の特性を踏まえた感染症対策が必要です。
保育所については「保育所における感染症対策ガイドライン」に基づいています。
参考:厚生労働相「保育所における感染症対策ガイドライン」をご覧ください。
学校感染症には病状により出席停止の基準は定めれらていますが、病状は個人によって異なるため、子どもが感染症にかかった場合は必ず医師の指示に従い、登校・登園の許可が出るまで十分に休養することが大切です。

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おわりに ~複数のウイルスによる重複感染に注意~
ヒトメタニューモウイルスについての基礎知識を解説してきましたが、特に乳幼児期から小児期の呼吸器感染症は、複数のウイルスによる重複感染が起こりやすく、重複感染率は10~30%になり、低年齢ほど重症化しやすくなります。
ヒトメタニューモウイルス感染症は、インフルエンザやRSウイルスの流行後に連動して流行り出すため、重複感染による重症化を防ぐために、日頃から感染予防に努めることが大切です。