女性らしさの源であり、出産にかかわる重要な器官「卵巣」
この卵巣が、近年危機に瀕していることをご存知でしょうか?
食生活の欧米化によって女性ホルモンのバランスが乱れやすくなっている上に、女性の一生における出産回数の減少に伴って排卵回数が増加。
これにより子宮や卵巣の負担が増え、婦人科系のトラブルが増加傾向にあるのです。
今回は、卵巣のトラブルのひとつ卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)を解説します。
女性なら誰でもかかる可能性がある卵巣嚢腫を知って、早期発見につなげましょう。
自覚症状がでない!卵巣は「沈黙の器官」
”女性の一生は、女性ホルモンに支配されている”といわれますが、その女性ホルモンを分泌しているのが卵巣。
うずらの卵ほどの大きさで、子宮の両側に1つずつある器官です。
卵巣は、2種類の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を分泌して月経リズムを作るほか、胎児のもととなる卵子を生成・成熟させる役割、妊娠につながるための排卵を起こす役割など、女性の生殖器の中心的な働きを担っています。
しかし、一方で卵巣は排卵のたびに負担がかかり、傷ついては修復を繰り返しているため遺伝子変異がおこりやすく、女性の体の中でもっとも腫瘍ができやすい器官ともいわれています。
近年日本では子宮や卵巣など婦人科系のトラブルが増加。
そこには女子の一生における出産回数が減少した分、排卵回数が増加し、卵巣機能がフル回転している影響が少なからずあるようです。
また卵巣は腹部の奥にある上に、片方の卵巣にトラブルが起こっても、もう片方の卵巣が働きを補うために、自覚症状が現れにくい「沈黙の器官」でもあります。
卵巣自体のトラブルに気づいていない状態で、たまたま婦人科系の検診を受けた際に病気が発見されるケースが多いのも、卵巣に関するトラブルの特徴でもあります。

卵巣はもっとも腫瘍ができやすい器官
卵巣は女性の体の中でもっとも腫瘍ができやすい器官ですが、腫瘍の9割は良性です。
その良性腫瘍のなかで一番多いのが、卵巣がコブ状に腫れる卵巣嚢腫(らんそうのうしゅ)。
卵巣が腫れる原因はわかっていませんが、何らかのきっかけで卵巣の一部が袋状になり、液体や脂肪などの分泌物がたまって腫瘍ができる病気です。
健康な状態ではうずらの卵ほどの大きさの卵巣が、たまった分泌物でこぶし大や、なかには子どもの頭の大きさほどになることもあり、内容物は卵巣嚢腫の種類によって異なります。
卵巣嚢腫の種類
漿液性嚢腫(しょうえきせいのうしゅ)
さらさらとした水のような液体がたまる嚢腫で、卵巣嚢腫でもっとも多いタイプ。
10代から30代の女性に多くみられます。
直径5cm位までの小さなものは経過観察でも構いませんが、大きくなると卵巣の根本部分がねじれ(茎捻転)、卵巣破裂が起きやすくなります。
粘液性嚢腫(ねんえきせいのうしゅ)
どろっとした粘り気のある液体がたまる嚢腫。
良性と悪性があり、更年期以降の女性に比較的多くみられます。
皮様嚢腫(ひようのうしゅ)
卵巣の内部にどろっとした脂肪がたまり、歯や髪の毛、軟骨などが含まれるものです。
これは卵子が勝手に卵巣内で分裂を始めることで起きるといわれており、大きくなると茎捻転や卵巣破裂が起きやすくなります。
チョコレート嚢腫(子宮内膜症性嚢腫)
子宮内膜症の一種。
卵巣内に子宮内膜のような組織ができ、月経のたびにそこに血液がたまってしまうものです。
通常の月経と違って血液は排出されずたまる一方なので、変色してチョコレート様となり、月経時に強い痛みが生じます。
周囲の組織と癒着したり、卵管が閉塞することもあるため、不妊の原因にも挙げられます。
また40歳以上での発症、もしくは嚢胞の直径が10cm以上のものでは、卵巣がんの合併率が急増するともいわれています。

卵巣嚢腫の症状の特徴
卵巣嚢腫は、初期の段階では自覚症状がほとんどありません。
進行し、嚢腫がこぶし程度に大きくなって初めて(何かおかしい・・)と気づく場合が多いようです。
<おもな初期症状>
・腰痛がひどくなった
・月経や排卵時におなかがちくちく痛む
・トイレが近くなった(頻尿)
・便秘しやすくなった
・下腹部がポコッと出てきた
・不正出血がある
嚢腫が膀胱や尿管を圧迫すれば頻尿が起こり、腸が圧迫されれば便秘になります。
いつもと違う症状に気づいたら、一度婦人科を受診しましょう。
卵巣嚢腫は定期検診が大切!
卵巣嚢腫は初期の段階では自覚症状がほとんどありません。
このため婦人科での妊婦健診、子宮がん検査、または他の疾患の検査の際に偶然発見されることが多いのが現状です。
卵巣嚢腫は月経がある年代ならどの女性にも起こりうる病気なので、若いうちから婦人科のかかりつけ医をもち、定期的に検査を受けることをおすすめします。
<検査の種類>
・問診、触診、内診、超音波検査による検査
卵巣嚢腫の有無を確認
・MRIやCTによる画像検査、腫瘍マーカーによる検査
確認された卵巣嚢腫の性質(良性・悪性の推定)、種類の判定などをおこなう
腫瘍が良性か悪性かは、超音波検査でおおよそ判断ができます。
超音波検査により腫瘍が袋状(嚢胞)の場合は多くが良性ですが、充実性部分(かたまりの部分)と袋状の部分が混在する場合や、全体が充実性の場合などは悪性を疑います。
さらに詳しく調べる場合は、MRIや腫瘍マーカーを併用しますが、最終的に「確定」するには、実際に嚢腫を摘出し、顕微鏡検査をおこないます。

卵巣嚢腫の基本は手術療法
卵巣嚢腫が確認されたら、数か月に一度検診を受け、経過を観察します。
5cm未満の嚢腫なら、とくに治療はおこなわずに外来での経過観察となります。
<5cm以上かどうか:手術するかは大きさで判断>
治療は原則として手術療法です。
嚢腫がにぎりこぶし大(5cm以上)になると、卵巣の根本がねじれる「茎捻転」を起こしやすくなるため手術を考慮。
手術は嚢腫が良性かどうかを確認するための方法でもあります。
このとき嚢腫の部分だけを切除するか、卵巣ごと切除するかといった手術の範囲は、嚢腫の大きさや悪性の可能性の有無などでかわってきます
・卵巣嚢腫の部分だけを摘出するケース:
将来的に妊娠を希望する場合や、30代までの女性は、一般的に嚢腫部分だけをくり抜くなど、できるだけ卵巣を残す手術方法がとられます。
・卵巣ごと摘出するケース:
捻転により卵巣が壊死している場合や、悪性の可能性が否定できない場合などは、トラブルのある方の卵巣を全摘することがあります。
ただしチョコレート嚢胞の場合は、卵巣がんを合併する可能性も考慮しなければなりません。
嚢胞が大きかったり高齢の場合は、がんの確定診断も兼ねた手術治療をおこないます。
腹腔鏡手術でチョコレート嚢胞を切り開いたり、嚢胞壁を焼灼するだけで治療効果がが得られた場合は、嚢胞を摘出しないことがあります。

<主流は腹腔鏡手術へ>
良性の嚢腫の場合、最近では体のダメージが少なく術後の回復も早い「腹腔鏡下手術」をおこなうことが増えています。
・腹腔鏡下手術となるケース:
卵巣嚢腫の大きさが10cm未満で、嚢腫の数が少ない場合
・開腹手術となるケース:
卵巣嚢腫の大きさが10cm以上で、嚢腫の数が3つ以上の場合
卵巣を摘出すると女性ホルモンのバランスが変化します。
とくに両方の卵巣を摘出すると女性ホルモンが作られなくなりますので、更年期のような症状がでやすくなります。
もちろん排卵もなくなります。
女性の一生を左右する問題ですので、家族や医師と充分に話し合った上で治療方法を選択するようにしましょう。

下腹部を襲う突然の激痛!危険な「茎捻転」
卵巣嚢腫に気づかずに嚢腫の肥大が進むと、嚢腫の根本がねじれる茎捻転(けいねんてん)が起こりやすくなります。
茎捻転を起こすと下腹部が突然激しく痛み、悪心や嘔吐、背中の痛みも伴うことも。
場合によっては卵巣が壊死したり、腹膜炎を引き起こすことがあり、大変危険です。
腫瘤などにより卵巣が重くなると、卵巣を支えている固有卵巣索や卵巣提索がねじれ、茎捻転を発症。
周囲の組織との癒着がない良性の卵巣嚢腫だからこそ起こりやすいものでもあり、とくに腫瘍が5~15cmのときに捻転を起こしやすいとされています。
茎捻転では卵巣動静脈もねじれるため血行が阻害され、うっ血・壊死を起こし、場合によっては捻転を起こした側の卵巣機能が失われることがあります。
またチョコレート嚢胞では、茎捻転によって嚢胞が破裂し、急性腹症(腹膜炎)を引き起こすことがあります。
茎捻転の検査と治療法
茎捻転が疑われる場合は、まずはエコー検査などで卵巣嚢腫の大きさや血流の状態を確認します。
さらに妊娠の有無を確認したうえで、CTやMRIにより検査をおこないます。
痛みには鎮痛剤を投与し、捻転や血行障害が確認された場合は緊急手術をおこないます。
おわりに
卵巣は、女性ホルモンや妊娠に関わる重要な器官。
嚢腫ができる原因がわかっていないだけに予防は難しいものですが、定期的に検診を受けることで卵巣の状態を観察することができます。
普段から婦人科系のかかりつけ医をもち、なんでも相談できるような信頼関係を築いておきましょう。