はじめに

妊娠糖尿病妊娠高血圧症候群、脂肪により産道が狭くなることなどを防ぐため、妊娠中の体重管理は重要です。
医療機関によって推奨体重増加量はさまざまですが、食事制限や運動により、体重を増やしすぎないよう指導するのが基本となっています。

しかし、体重増加が少なすぎると低出生体重児や流産のリスクが高まります。
アメリカで行われた研究により、妊娠中の体重増加量が少ない場合、男の子の赤ちゃんが生まれにくくなることが明らかになりました。

 

飢きんの時は男の子の赤ちゃんが減り、女の子が増える

もともと人間は男児の方が新生児死亡率もその後の死亡率も高く、世界的にみると平均で女の子100人に対し男の子105人が生まれ、思春期~青年期(繁殖年齢)で1:1となり、その後男女比が逆転することが知られています。
しかし、この比率は社会的・経済的・生理学的なさまざまな要素に左右され、地域や時代により異なります。

たとえば日本では人口の男女比は、

  • 出生時-106:100(男:女)
  • 14歳以下-107:100
  • 15~24歳-109:100
  • 25~54歳-98:100
  • 55~64歳-94:100
  • 65歳以上-76:100
  • 総人口-95:100 (2014年、推計)

となっているのに対し、バングラデシュでは

  • 出生時-104:100
  • 14歳以下-103:100
  • 15~24歳-88:100
  • 25~54歳-90:100
  • 55~64歳-95:100
  • 65歳以上-96:100
  • 総人口-95:100 (2014年、推計)

となっています。

また、飢きんや戦争などの極度の環境ストレスのもとでは女の子の方が多く生まれるようになることがわかっています。

赤ちゃんの性別は早くても妊娠16週ごろを過ぎないと判定できないため、お母さんのおなかの中で性別が変わると思っている方もいるかもしれませんが、胎児の性別は性染色体がXX(女)XY(男)かによって決まります。


受精の時点で、Y染色体をもつ精子が卵子に着床するか、X染色体をもつ精子が着床するかによって、すでに性別は決まっているのです。

なお、X染色体をもつ精子とY染色体をもつ精子の存在比は50:50であることが知られています。
したがって、出生時の男女比の逆転は、栄養失調により男の子の胎児生存率が低くなることによると考えられます。

 

妊娠中の体重増加量と生まれてくる子どもの男女比

ジョージア大学の農学・環境科学部のKristen Navara准教授らの研究では、CDC(アメリカ疾病管理予防センタ)のデータから、1990-2012年の23年間にわたる6800万例以上の妊娠出産(双子や三つ子を含まず)の記録から在胎週数37週間未満のケースを除いて分析し、妊娠中の体重増加量と出生時の男女比の関係を調べました。

その結果、妊娠中の体重増加量と男女比には強い相関が見られ、体重増加量が多いほど男児の割合が高くなりました。これは4つの民族(アフリカ系、アジア系、ヨーロッパ系、ネイティヴアメリカン)に分けて分析した際も共通だったとのこと。


(Kristen J. Navara via PLOS ONE)

出生時の男女比は全体では23年間を通してほぼ51:49で男児の方が多かったのですが、体重増加が20ポンド(約9kg)未満の場合は48:52で女児の方が多くなっていました。
Navara准教授によると、これは妊娠初期から中期に男の胎児の方が多くのエネルギーを必要とし、母胎の悪条件に影響されやすいためと考えられるそうです。

XYの受精卵の方がXXの受精卵と比べ細胞分裂のペースが早く、多くのエネルギーを必要とすることが知られています。
その後も妊娠中期の終わり(第28週)までは男の胎児の方が成長が早く、これが新生児体重の男女差(約100g)にあらわれています。

Navara准教授らは次に、2003年から2012年にアメリカで記録された流産について、母親の体重増加量と胎児の男女比を分析したところ、妊娠6か月(第21-24週)での流産では体重増加量が多いほど男児の流産が少なく、妊娠7か月・8か月の流産では有意な相関は見られなかったそうです。

妊娠6か月以前の流産では体重増加量と流産した胎児が男児である割合はより強く相関すると予測されますが、CDCでは6か月以前の流産についてのデータは提供していないとのことです。

(Kristen J. Navara via PLOS ONE)

最後に、2011-2013年のアメリカ人女性約640万人分のデータから妊娠前のBMI(ボディマス指数)と生まれてくる子どもの男女比の関係を分析したところ、低体重のグループ(BMI18.4未満)では普通体重(BMI18.4–24.9)と比べ男児の率が有意に低かったものの、高体重(BMI25以上)のグループとは有意な差は見られなかったとのこと。

先行研究により妊娠前のBMIと妊娠中の体重増加量が相関することがわかっていて、妊娠前のBMIと出生時男女比が一見相関しているように見えるのは、妊娠中の体重増加量と男女比の強い相関に影響されたことによると考えられるそうです。

(Kristen J. Navara via PLOS ONE)


今後の研究では、妊娠中の推奨体重増加量は胎児の性別を考慮すべきか、男の子を妊娠している場合は女の子の場合よりたくさん食べた方がよいのかなどを探っていきたいとNavara准教授は述べています。

 

おわりに

これまでに、ウシやマウスなどの哺乳類を使った実験では、妊娠中の栄養失調によりオスが生まれにくくなりメスの比率が高くなることがわかっていて、この現象はオスの流産率の増加により説明できると示唆されています。

今回の調査結果は因果関係を明確にするものではありませんが、妊娠中の体重増加量と生まれてくる子どもの男女比は確実に相関しているようです。

妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群の予防のためには、体重を増やし過ぎないことが重要です。
しかし、過度の体重管理指導や、体型維持のための無理なダイエットなどにより栄養が不足すると、流産のリスクが高まってしまいます。

日本人の場合、赤ちゃんの体重に羊水や胎盤の重量、胸や子宮などが大きくなったり血液が増えたことによる重量を合わせると、妊娠中に必然的に増えるのは約8kgと言われ、妊娠中の体重増加量が7キロ未満の場合、低出生体重児を出産するリスクが高いことも分かっています。
妊娠前の肥満度によっては医師からダイエットを指示される場合もありますが、自己判断での妊娠中のダイエットは危険です!

(image by freeimages)
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