はじめに ~常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)とは~
胎盤は通常、胎児が生れた後に子宮壁から剥がれて排出されるのですが、常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)は、まだ胎児が子宮内にいるのに、胎盤が子宮から突然剥がれてくる病気です。
剥離の状態は、剥がれる面積が小さいか大きいか、ゆっくり剥がれるか、急速に剥がれるかなどにより、軽度から重度まであります。
妊娠後期に起こりやすく、重度の剥離は胎児も母体にも命の危険が及びます。
妊娠中の疾患の中でも特に緊急性を要する代表的なものです。
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常位胎盤早期剥離はなぜ危険なの?
胎児は胎盤を介して酸素や栄養分をもらっています。
胎盤が剥がれると子宮壁から出血し、子宮壁と胎盤の間に「胎盤後血腫:たいばんこうけっしゅ」という血の塊ができ、胎児への酸素と栄養が急激に減少、またはストップしてしまいます。
重度の胎盤剥離が進むと大出血が起こり、出血多量により、肝臓や腎臓などの重要な臓器の障害を起こします。
また母体の血液が固まらなくなる「播種性血管内凝固症候群(DIC)」が起こると、胎児だけではなく子宮の摘出が必要となり、母体も死亡する可能性があります。
常位胎盤早期剥離の原因は?
◇高血圧(妊娠高血圧症候群)
◇血液凝固疾患
◇胎児奇形、子宮内胎児発育遅延
◇前期破水
◇絨毛膜羊膜炎などの感染症
◇喫煙や薬物(コカイン)
◇外的刺激(事故、転倒など)
このような様々な要因によって起こります。
症状は?
◇性器出血はほとんどないか、生理の時と同程度
◇腹部に差し込むような痛み
◇子宮の圧痛
◇無症状の剥離もある
◇子宮の強い収縮
◇突然の持続的な強い腹痛
◇子宮内の大量の出血
◇性器からの外出血がない場合もある
◇剥離部分の腹部が硬くなる
◇発症から数時間で急激に剥離する場合がある
胎盤が50%以上剥がれる場合は母子ともに死亡する可能性があり、大変危険です。
治療法は?
剥離が非常に軽度であれば、多くの場合、安静にすることで出血は止まりますが、その後は綿密な経過観察が必要です。
中度の場合、時に輸血などの応急処置が必要なこともあり、衰弱の兆候が見られたら即分娩に移る場合もあります。
重度の剥離の場合は、DIC(母体の血液が固まらなくなる)に対する治療も考慮し、輸血や即座の分娩(多くは緊急帝王切開)になります。
場合により、母体救命のためにやむをえず子宮摘出術をすることもあります。
このように剥離の程度により対処方法が異なりますが、いずれにしても常位胎盤早期剥離は危険な症状です。
ただし、近年は超音波画像診断による早期発見や、出血性ショックに対する治療の進歩などにより、母体の死亡率は減少傾向にあります。
そのため定期的な健診を忘れずに受診することが大切です。
おわりに
赤ちゃんの命をつなぐ胎盤のトラブルの中でも「常位胎盤早期剥離」は緊急疾患の代表的なものです。
妊娠中の知識として知っておき、どんなに軽度であっても自己判断をしないようにしましょう。