新生児一過性多呼吸(しんせいじいっかせいたこきゅう)とは
「新生児一過性多呼吸(transient tachypneaof the newborn:TTN)」は、赤ちゃんが出生直後に呼吸困難を起こす比較的多い病気です。
赤ちゃんは胎児の頃、胎盤から酸素や栄養素をもらっているため自分で呼吸する必要はありませんが、生れてすぐに自分で「肺呼吸」をする必要があります。
胎児の頃の赤ちゃんの肺は、空気ではなく「肺液(はいえき)」という液体で満たされています。
この肺液は通常、出生時に排出され肺の中に吸収されるのですが、一過性多呼吸は肺液の吸収が遅くれるために起こる呼吸障害です。
胎児から出生後に肺呼吸するまでの仕組みは?
赤ちゃんは以下の経緯で肺呼吸ができるようになります。
①妊娠後期になると胎児の肺液の産生が抑制される
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②陣痛が開始すると、胎児の体内物質のエピネフリンの分泌が増加し、肺液の胎児の体内への吸収を促進
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③分娩時の産道通過の際、赤ちゃんの胸が圧迫され肺液が外に排出される
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④生れてはじめて泣き始める産声(啼泣:ていきゅう)をあげると肺が拡張し、肺に流れる血流も増加することで、肺液が空気が入れ替わり肺呼吸を開始する
このように、胎児の頃から徐々に準備を始め、生まれてすぐに肺で呼吸ができるようになります。
新生児一過性多呼吸の原因は?
▶分娩前の肺水の分泌抑制が起こらない場合
▶帝王切開分娩
▶子宮頚管無力症などによる早産
▶母体の糖尿病や低たんぱく血症
▶低出生体重児
このような発症因子があり、前述した肺呼吸までの順序のいくつかに障害を起こすことによって起こります。
新生児一過性多呼吸の症状は生後6時間以内に現れます
出生直後~6時間以内に以下の症な症状が現れます。
●多呼吸 頻呼吸が12時間以上続く
●呼吸は早いが換気量は低下している
●呻吟:しんぎん(呼吸がうめくような音)
●陥没呼吸(胸がペコペコする)
●チアノーゼ(唇や皮膚が紫色になる)
●通常は24時間~72以内に利尿と共に改善していく
●数日続くこともあるが1週間以内には正常化する
このように、あくまでも「一過性」の呼吸障害のため、多くは適切な処置により予後は良好です。
診断と治療法は?
■診断
出生直後の多呼吸の症状と、胸部X線で診断されます。
ただし、新生児の多呼吸をきたす他の呼吸疾患の可能性を除外した上での診断となります。
生後6時間が経過しても呼吸症状が改善しない、または悪くなっている場合は心臓超音波検査や血液検査なども行う場合があります。
■治療法
主に酸素投与で改善していきます。
一過性多呼吸の症状は、通常48 ~72時間で自然に治ります。
ただしまれに1週間程続くこともあり、中には人工呼吸器管理などで呼吸のサポートが必要な場合があります。
一過性多過呼吸の場合、排液が吸収され症状が改善すれば、通常はそれ以上の健康問題はなく特別な治療も必要ありません。
多くの場合、良くなった後に後遺症を残すこともありません。
このように過剰な心配は要りませんが、重症の場合で低酸素が持続すると脳障害などの危険や、長期に渡る人工呼吸器の使用による肺へのダメージが全くないとはいえないため、重症であった場合は予後について医師に確認することが必要です。
一過性多呼吸の予防はあるの?
妊娠中は以下のことに注意しましょう。
▶妊娠健診を欠かさず受けようにする
▶健康的な食事を心がける
▶禁煙、アルコールの摂取はしない
▶医師に処方されていない薬を服用しない
▶疲労、ストレスの回避
妊娠中は、母体にも胎児にもあらゆる病気やトラブルの予防として、このことは最低限守りましょう。
さいごに
赤ちゃんが生れて元気な産声を上げた時は誰もがほっとしますね。これは赤ちゃんが自分で呼吸をし始めるバロメーターです。
一過性多呼吸症はその後しっかり呼吸が安定していれば大丈夫!赤ちゃんが自分で呼吸する仕組みもお分かりいただけたと思いますが、一過性多呼吸は新生児には多く見られるため新生児特有の病気として知っておきましょう。