摂食・嚥下障害(えんげしょうがい)という言葉を聞いたことはありますか?
嚥下障害とは、食べ物が上手く食べられなくなること。
高齢者に多く見られますが、実はストレスなどが原因で誰にでも起こる可能性があるのです!

生きるために大切な食事に関わる嚥下障害について、詳しく解説していきます。

 

「嚥下障害」は食物を食べる機能の障害!

私たちは普段、食べる時に

 ①目や鼻で食べ物を認知する
 ②食べ物を口に入れて噛む
 ③舌が食べ物を後ろ(のどの方)へ送る
 ④食べ物を咽頭(のどの入口)・食道へ送る
 ⑤食道から胃へと送る


という5つの動作を無意識に行い、食物や水分を摂取しています。
嚥下障害とは、これらのうち1つ、または複数以上が正常に機能しなくなった状態のことをいいます。

嚥下障害は、直接命に関わる障害ではありませんが、様々な問題を引き起こす危険性を持っています。

食べ物が上手に飲み込めない「嚥下困難」
飲み込んだものが誤って気管に入り込んでしまう「誤嚥(ごえん)」
上手に食べられないことが原因となる「食べる楽しみの喪失」

「嚥下困難」は低栄養や脱水を引き起こし、「誤嚥」により窒息、肺炎の可能性を招きます。また、「食べる楽しみの喪失」は生きる意欲の低下に繋がる危険性があります。
 

嚥下障害の症状

嚥下障害には特徴的な症状が少なく、ほかの病気や障害と間違えやすいので注意が必要です。
以下のような症状が複数出ている場合、嚥下障害が疑われます。ご自身の症状に不安がある場合、一度歯科医院やかかりつけの医師に相談しましょう。

《嚥下障害が引き起こす症状》
・唾液が飲み込めずに吐き出してしまう
・唾液や食べ物が口から垂れる
・口が乾く・飲み込むときに痛みがある
・食べ物や飲み物が上手く飲み込めない
・声や呼吸がガラガラする
・常にのどがゴロゴロしている
・たんが多く汚い
・発熱や肺炎を繰り返す
・食事中にむせたり、咳こんだりする
・食事に時間がかかる
・食後にたんや咳が増える
・食事をすると疲れる
・食欲がない
・体重の減少

嚥下障害の原因

嚥下障害の原因は、主に3つに分類されます。

器質的な障害

食物の通路である口腔・咽頭・食道のいずれかが、様々な原因で構造が変化して、食道の通過が妨げられることにより発生します。生まれついての先天的なものから、炎症・外傷やがんなどの後天的なものが原因となります。
 

機能的な障害

脳出血、脳梗塞の後遺症、パーキンソン病、末梢神経炎、球麻痺、仮性球麻痺など、筋肉や神経の障害が原因となります。加齢による筋力の低下や歯の数の減少などが原因の場合も機能的な障害に当たります。

心理的な障害

器質的・機能的に問題がないときでも、心因性の要因で嚥下障害になる場合もあります。神経性食欲不振症などの摂食障害、心気神経症による咽頭異常感症、うつ病などによる嚥下困難など、原因は多岐に渡ります。

また、ストレス性胃潰瘍や神経性胃炎などの心身症によるおう吐や胸やけなども原因となります。

ほかにも、向精神薬や鎮静剤などの薬剤による副作用や、高齢者であれば入れ歯の噛み合わせが悪いなど、外的な要因も。

嚥下障害の原因は、何か1つに決まっているわけではありません。
複数の原因が絡み合って引き起こし、主原因がハッキリしないことが多々あります。そのため、『どこがどのように悪くなっているのか』をしっかり調べて、原因と症状に合わせた治療をしていきます。

 

嚥下障害を見逃さない!診断と検査方法

ここでは、嚥下障害の診断と検査についてご紹介します。

嚥下障害の診断

まず、嚥下障害の徴候がないか、病歴などを問診します。問診で嚥下障害が疑われたら以下の様な方法で、障害の重さを詳しく評価していきます。

◼︎反復唾液嚥下テスト法
30秒間に唾液を飲み込むことができる回数を測定します。
30秒間に3回以上飲み込めない場合、嚥下障害があるものと考えます

◼︎嚥下負荷テスト
水を正常に飲めるかを検査する「水飲みテスト」を行います。
3ml程度の少量で安全性を確認した後、30mlの水を一気に飲み込みます。5秒以内にむせることなく飲めれば正常とし、それ以外は嚥下障害の疑いがあるものと判断します。

注意!
「むせ」がない誤嚥もあり、嚥下撮影などの検査をする場合があります。

◼︎その他のチェック
気管切開により呼吸を補助する器具(カニューレ)が装着されている場合、器具が嚥下に悪影響を与えている場合があるので、交換するなどして改善を図ります。
嚥下障害により口から物を食べていない場合、「食べていないから」という理由で口腔のケアを怠っていないか調べます。口腔ケアが不十分だと口腔内に菌が繁殖しやすくなり、この状態で唾液を誤嚥すると、肺炎のリスクが高くなります。
 

嚥下障害の検査法

嚥下運動は外部からは観察しにくいので、重度の嚥下障害が疑われる場合には、以下のような検査を行いながら嚥下訓練(リハビリ)を進めていきます。

嚥下造影検査

バリウムなどの造影剤を含んだ模擬食品を飲み込ませ、透視像を映像に記録する検査方法。誤嚥の有無や口腔・咽頭・食道の動きを観察し、安全に食べるための条件を見つけます。
 

内視鏡検査

鼻腔咽喉頭ファイバーという内視鏡による検査は、のどの粘膜の状態や機能、分泌物の貯留と気道への流入の有無を確認できます。
また、模擬食品ではなく、実際の食品を飲み込む場面を撮影することができます。嚥下造影検査と併用することで、より多くの情報を得ることができ治療に役立ちます。
 

単純X線検査

造影剤(バリウム)を嚥下させる前後で、咽頭や咽頭部の単純X線撮影を行い、誤嚥の有無を判定します。主に、嚥下造影検査ができない施設にで行われます。


 

嚥下障害の主な治療はリハビリ

嚥下障害は、主に嚥下訓練(リハビリ)で治療、改善をはかっていきます。
嚥下訓練には、食物を使わない基礎訓練(間接的訓練)と、食物を使った摂食訓練(直接的訓)があります。
自宅で簡単にできるリハビリをご紹介します。

訓練方法

 食物がなかなか飲み込めない、食事時間が異常に長い場合には、食事の調整(すべりのよいもの、とろみのあるものに変更)や、摂食時の姿勢の調整(座位からリクライニング位へ)を行います。
また、食後にのどがゴロゴロしているという場合は、更に以下の方法を試します。

  • 複数回嚥下
  • 横向き嚥下
  • 交互嚥下
  • 随意的なせき
  • 声門越え嚥下

食事の食べ始めであれば、30度程度のリクライニング姿勢でゼリーなどを食べることから始めるのがオススメ。
 

食事にかける時間

一回の食事にかける時間は、30~45分以内に限定することが望ましいです。
食事の時間が長くなると、患者・介助者ともに負担が大きくなり誤嚥につながるおそれがあります。時間ではなく、2回むせたら止める、のどがゴロゴロしたら止めるなど、中止の目安を決めておくと良いでしょう。
肺炎、脱水、低栄養の徴候を早期発見するために、体重、尿量、食事中や食後のむせとせき、たんの量や状態、発熱の有無などをチェックし、異常があれば医師に相談しましょう。

リハビリ時の食事の工夫

リハビリでは飲み込みやすいような工夫を、食事に施します。こうしたものを嚥下食と呼びます。

液体

水や、水のようにサラッとした液体は、片栗粉や増粘剤でとろみをつけます。
ゼラチンを使ってゼリーにすることも有効です。寒天ゼリーの場合は口の中でバラバラになりやすくあまり向きません。
 

固いもの

肉、魚、イモ類、野菜、果物など、噛み応えがあるものは、柔らかく調理します。
その後、裏ごしやミキサーにかけ、水分が少ない場合は水を足し、とろみをつけるかゼリーにします。

卵はプリンやカスタードクリームなどにします。卵豆腐や茶わん蒸しでも可能ですが、寒天ゼリー同様、口の中でバラバラになりやすいので注意が必要です。

その他

市販のヨーグルト、プリン、ゼリー、絹ごし豆腐、ゴマ豆腐、ベビーフードなどをそのまま利用することもあります。
近年では嚥下障害用の食品も多数販売されているため、ご活用ください。

 

自宅でできる嚥下障害の予防体操!

リハビリでも行われている簡単な体操で、嚥下障害を改善するだけでなく、予防することもできます。

嚥下体操

日常的に行うことで、嚥下障害の予防につながります。食事の前に行うと、嚥下の準備運動にもなり、より効果的に。また、口や舌などを思い切り動かすように意識するとさらに効果的です。

!注意!
体操中に首や口などに痛みを伴う場合は、無理をしない程度に行ってください。

①姿勢を整える
背筋を伸ばして座り、全身の筋肉バランスを整えます。

②深呼吸をする(3回)
お腹に手をあて、大きく鼻から息を吸い、口からゆっくりと吐いていきます。
このとき、なるべく長く息を吐くように意識してください

③首の体操(2回繰り返す)

  1. 首だけでゆっくりと後ろを振り返る(左右どちらも行う)
  2. ゆっくりと首を左右に倒す
  3. 首を左右に、ゆっくりと回す




④口の体操(3回繰り返す)

  1. 口を大きく開ける
  2. 口をしっかりと閉じて奥歯を噛みしめる。
  3. 口を「う」の形にとがらせる
  4. 口を横に開いて上下の歯を「いーっ」出す



⑤舌の体操(3回繰り返す)

  1. 口を大きく開け、舌をできるだけつき出す
  2. 上唇をなめる
  3. 口の両端をなめる



⑥頬の体操(3回繰り返す)

  1. 頬を膨らませ、口や鼻から息が漏れないようにこらえる
  2. 口をすぼめる

⑦咳ばらいをする
机に両手をつくなどして、お腹に力を入れながら強く「ゴホンッ」と咳ばらいをする

⑧発声練習をする

  1. お腹に力を入れて「パ」「タ」「カ」「ラ」「ゆっくり」発声する
  2. 今度はお腹に力を入れて「パ」「タ」「カ」「ラ」「早く」発声する
     

おわりに ~ 美味しいものを、いつまでも

様々な病気を引き起こす可能性のある嚥下障害。
嚥下障害になってしまった場合、リハビリで以前と変わらない状態に戻すことを目指しますが、完全に回復できるとは限りません。
美味しいものをいつまでも食べられるように、嚥下障害の予防を心がけましょう。

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