ノロウイルス感染症とは
ノロウイルス感染症は、食中毒や胃腸炎が起こる感染性胃腸炎の一種です。
ノロウイルスの最初の発生は、今から約50年前のことです。アメリカのオハイオ州の小学校で、急性胃腸炎が集団発生したことがきっかけでウイルスが検出されました。
ノロウイルスの流行時期は?
一年を通して発生はみられますが、流行時期としては11月くらいから増えはじめ、12月~翌年1月がピークとなります。
ノロウイルスは人が免疫を持っていない変異型が出現することがあり、その場合は流行が拡大してしまうことがあります。
ノロウイルスの大きさは?
ノロウイルスはウイルスの中でも特に小さく、発見当時の顕微鏡ではその姿を確認できませんでした。
数年後、電子顕微鏡の発達によってノロウイルスが球体であることから「小型球形ウイルス」と呼ばれるようになりました。
同じく冬場に流行するインフルエンザウイルスと比較すると1/3程度の大きさです。

ノロウイルス感染症の症状
ノロウイルス感染症の主な症状は、吐き気・下痢・嘔吐です。腹痛・発熱・頭痛・悪寒・倦怠感などがともなうこともあります。
熱が出た場合、高熱になることは少なく37℃程度の微熱が多い傾向にあります。
また、ノロウイルスに感染しても発症しない場合や、風邪に似た軽い症状でおさまる場合もあります。
ノロウイルス感染症の症状について詳しくは関連記事をごらんください。
子どもが特に注意したい脱水症状
子どもがノロウイルスに感染した場合は、発熱がみられないケースもあります。
子どもの場合、ノロウイルスによる感染で特に注意しなければいけない症状は、消化器症状である「下痢」や「嘔吐」です。特に嘔吐は非常に回数が多く、中には1日10回以上も嘔吐してしまう場合もあります。
嘔吐が多いと脱水症状になる確率が高くなるため、こまめな水分補給をすることが大切です。
■糞便でノロウイルスの感染がわかる?
子どもの糞便の色や形状に注目してみましょう。黄味がかった水っぽい下痢は、ノロウイルス感染症による糞便の特徴です。
さらに何度もこうした下痢を繰り返す場合は、ノロウイルス感染症の症状である可能性が高まります。
大人にみられる症状
大人のノロウイルス感染症は、子どもに比べて短期的である一方、症状が強いことが特徴です。
感染時に現れる症状は子どもの場合と同じく、主に嘔吐や下痢、腹痛です。
さらに微熱もみられます。短期間でこうした症状が一度に現れることから、体力が奪われめまいが起こることもあります。
子ども場合と同じく、脱水症状にも充分注意してください。
ノロウイルス感染による症状が出る期間は?
ノロウイルス感染による症状が出る期間は、通常1〜2日です。ノロウイルスには後遺症もなく、短期間でおさまることがほとんどです。
ノロウイルスの潜伏期間
ノロウイルスの潜伏期間は短く、24~48時間が平均とされています。
ただし、これはあくまで平均であり、最短では数十時間、つまり1日にも満たない時間で発症することもあります。
潜伏期間でも症状はある?
潜伏期間はウイルスに感染してから発症するまでの時間を指すため、基本的に潜伏期間に症状を感じることはありません。
ノロウイルスは潜伏期間でもうつる!
ノロウイルスは潜伏期間でも感染するおそれがあります。
感染者がトイレの後に触れたドアノブや水洗レバーにほかの人が触れて感染することや、十分に手洗いをせずに調理された食品が汚染され、それを食べた人が感染するという可能性が考えられます。
潜伏期間は症状が現れていないため、知らないうちに感染を広げてしまうおそれがあります。普段から十分な手洗いを心がけましょう。
ノロウイルスの潜伏期間について詳しくは関連記事をごらんください。
ノロウイルス感染症の原因と感染経路
ノロウイルス感染症は、食品に付着したウイルスを摂取したことからの感染がほとんどの原因を占めています。
そのほか感染者の手指からの感染や、感染者の糞便や嘔吐物を処理するときの感染、空気中に漂うウイルスからの感染が原因となります。
ノロウイルスの感染経路について詳しくは関連記事をごらんください。
経口感染
ノロウイルスの主な感染経路は経口感染です。
ノロウイルスに汚染されたカキなどの二枚貝を、生や加熱が十分でない状態で食べたときに感染します。
また、手指にウイルスがついた感染者が調理した食材を食べることや、調理器具や食器の洗浄が不十分でウイルスが付着している場合も起こります。
接触感染
ノロウイルス感染者の糞便や嘔吐物に触れて、ウイルスが感染した手指で触れた部分をほかの人が触れることで感染します。
排便後に十分に手を洗わないと、ドアノブ・水道の蛇口・手すり・つり革などさまざまなところにウイルスが付着する原因になります。
また、感染者の糞便や嘔吐物をほかの人が処理する場合も、接触感染に十分な注意が必要です。正しい汚物の処理方法で処理しましょう。
飛沫感染
感染者の糞便や嘔吐物が床などに飛び散ったときは、ノロウイルスを含んだ小さな水滴が1〜2m程度飛散するおそれがあります。そのしぶきを吸い込むことでもノロウイルスに感染します。
空気感染
ウイルスを含んだ糞便や嘔吐物が乾燥すると、ほこりと一緒に舞い上がって空気中を漂い、吸い込むことで感染します。
ノロウイルスの感染期間と感染力
ノロウイルスの感染期間
ノロウイルス感染症の症状がおさまった後も、感染から1週間程度は糞便にウイルスが排出され、最低でも1週間はほかの人に感染するおそれがあります。
長い場合は1か月も糞便からウイルスが排出され続けたという例もあります。
ノロウイルスの感染力
ノロウイルスの感染力は非常に強く、10〜100個という少量のウイルスで感染します。
糞便や嘔吐物に含まれるウイルスの量は1gあたり100万個以上にのぼるため、ごくわずかな接触でも感染しやすいことがわかります。
また、感染経路はひとつではなく、いくつもあることも感染しやすい原因になっています。
糞便に含まれるウイルス | 1gあたり100万〜10億個 |
嘔吐物に含まれるウイルス | 1gあたり100万個 |
ノロウイルスの生存期間
ノロウイルスは低温で乾燥した環境を好みます。
乾燥状態の4℃で約2か月間、20℃までで約1か月間生存しているほど、生存期間が長いことがわかっています。
ノロウイルスはどこで増殖する?
ノロウイルスは人の腸内でのみ増殖し、貝や食品中では増殖しません。
ノロウイルスの検査
病院で主に行われている検査方法は、迅速検査キットによるものです。感染が疑われる人の糞便からノロウイルスが検出されるかどうかを診断する方法です。
結果が出るまでにかかる時間は15~20分で、すぐに診断結果がわかります。
検査費用
ノロウイルスの検査は自由診療のため、検査費用は自費になります。
費用は病院によって異なりますが、迅速検査キットでの検査費用の目安は3,000〜5,000円です。
■診断書の料金は?
職場によっては休むことの証明や周囲へ感染を広げるおそれがないかの確認として、診断書の提出を求められることがあるかもしれません。
診断書の発行には3,000円程度の料金が必要になります。
保険は適用される?
ノロウイルスの迅速検査キットによる診断では、3歳未満の子どもや65歳以上の高齢者のみ保険が適用されます。それ以外の年齢では原則保険適用外となっています。
3歳未満の子どもや65歳以上の高齢者に保険適用があるのは、この年齢層はノロウイルスの感染によって重症化する可能性があるためです。早期に診断することで適切な対応をすることが目的です。
どの病院でも検査を受けられる?
ノロウイルスの検査は一般的にはあまり行われていません。
ノロウイルスには効果的な薬がなく、基本的には体内からノロウイルスがいなくなるのを待つしかないからです。症状の原因がノロウイルスであってもなくても、治療の仕方が変わらないことが理由です。
ノロウイルスの検査について詳しくは関連記事をごらんください。
ノロウイルスの感染予防
手洗いの徹底
手指に付着したノロウイルスを減らす有効な方法が手洗いです。
帰宅後・調理前・食事前・排便後・感染者の糞便や嘔吐物を処理した後などにこまめに手洗いをしましょう。嘔吐物などの処理をしたときに手袋をしていたとしても、手洗いは必ず行います。
日頃から爪は短くし、指輪は外して十分に泡立てた石けんで爪の間や指と指の間まで丁寧に洗いましょう。
すすぎは温水で洗い流し、清潔なタオルかペーパータオルで拭き取ります。
石けんでノロウイルスを殺菌することはできませんが、脂肪などの汚れを取ることでウイルスを剥がれ落ちやすくします。
食品は十分に加熱する
ノロウイルスが含まれている可能性の高い二枚貝は、十分に加熱しましょう。
加熱の温度は85~90度、加熱時間は90秒以上が目安です。
食べる前には中まで火が通っているか、しっかり確認してください。
調理台や調理器具の殺菌
調理器具は、こまめに洗浄・消毒を行いましょう。特に二枚貝の調理をした場合は、気を付けてください。
金属性のものやまな板、ふきんなどは85℃以上の熱湯で1分以上、熱湯消毒しましょう。
木製やプラスチック製のものは洗剤で洗ったあと、次亜塩素酸ナトリウム消毒液に浸すか、浸すように拭きましょう。
感染を防ぐ!糞便や嘔吐物の処理方法
ノロウイルス感染者の糞便や嘔吐物を処理する場合は、二次感染しないよう細心の注意が必要です。
■用意するもの
・使い捨て手袋・マスク・エプロン
・ペーパータオル(新聞紙でも可)
・次亜塩素酸ナトリウム消毒液
・密閉できるビニール袋2袋
■処理方法
1.ビニール袋などの廃棄用袋はバケツにかけるなどして、あらかじめ口を広げておきます。
2.腕時計や指輪などの装飾品を外して、手袋とマスク、エプロンをつけます。
3.糞便や嘔吐物をペーパータオルで覆い、上から次亜塩素酸ナトリウム消毒液をかけ、静かに拭き取ります。その後すぐにビニール袋に捨てましょう。
4.次亜塩素酸ナトリウム消毒液をペーパータオルに浸し、糞便や嘔吐物が付着した床を広範囲に外側から内側へ向けて拭きます。近くに壁がある場合は壁にも飛び散っている可能性があるため、壁も拭きましょう。最後に水拭きをします。拭き取ったペーパータオルはすぐにビニール袋に捨て、袋の口をしっかりと縛ります。
5.口を縛ったビニール袋をさらにもう1枚のビニール袋に入れ、使用した手袋やマスク、エプロンも捨て口をしっかりと結んで捨てましょう。
6.手袋をしていても処理後の手洗いは必須です。丁寧に手洗いをしましょう。
予防に有効!次亜塩素酸ナトリウム消毒液の作り方
ノロウイルスはアルコールでは消毒できないため、ノロウイルスの消毒には次亜塩素酸ナトリウム消毒液が有効です。
ノロウイルスに効く消毒液は、ペットボトルでハイターなどの塩素系漂白剤と水を混ぜれば完成します。
用途によって水と次亜塩素酸ナトリウムの比率が違うので注意しましょう。
【嘔吐物や糞便が付着した場所の消毒の場合:濃度 1,000ppm/0.1%】
・水……500ml
・塩素系漂白剤……10ml
500mlのペットボトルに水を入れ、ペットボトルのキャップ約2杯分の塩素系漂白剤を混ぜれば完成です。
【衣類・床・調理器具・ドアノブなどの消毒の場合:濃度 200ppm/0.02%】
・水……1L
・塩素系漂白剤……4ml
500mlのペットボトル2本分の水と、ペットボトルのキャップ約1杯分の塩素系漂白剤を混ぜれば完成です。
ノロウイルスの消毒方法については関連記事をごらんください。
ノロウイルス感染症の治療
ノロウイルスに効く薬はある?
ノロウイルスに作用するワクチンはありません。ノロウイルスは菌ではないため、抗生物質も効きません。
また、下痢がつらいと下痢止めの薬を使用したくなるかもしれませんが、おすすめできません。
ノロウイルス感染症の症状で下痢や嘔吐が起きるのは、体内に入ったウイルスを体外に出そうとする反応です。
ノロウイルスに作用する薬がない現状では、ウイルスを体外に出すことでしか症状を改善することはできません。そのため、下痢止めを使用してしまうとウイルスの排出を遅らせて症状を長引かせてしまうおそれがあります。
つらいですが、嘔吐や下痢でウイルスを出してしまいましょう!
ノロウイルス感染症のときの食事
ノロウイルス感染症の症状が強くあらわれているときは、食欲が出ないことが多いでしょう。そんなときは無理に食事をとらなくても構いません。
下痢や吐き気などの症状がおさまってきてから、胃腸に優しい食事を摂りましょう。
具体的には、おかゆ、すりおろしたリンゴ、白身魚、野菜を柔らかく煮込んだスープなどがおすすめです。
このほか腸内の環境を整える善玉菌が豊富なヨーグルトも良いとされています。
一方で胃腸に負担を与える揚げ物や、胃腸に刺激を与える香辛料を使った料理や食物繊維が豊富な食事は控えてください。
徐々に体力が回復して来たら、食事も少しずつ固形のものに戻してください。
こまめな水分補給
下痢や嘔吐、発熱などがあると脱水症状が起こりやすくなるため、水分補給はとても大切です。
おすすめは経口補水液です。市販品ではOS-1(オーエスワン)が代表的ですが、経口補水液は自宅で作ることもできます。経口補水液は水とともに失われる体に重要な役割を持つ電解質も補うことができます。
ほかにはお茶や白湯、生姜湯もおすすめです。
飲み方は5〜10分おきにスプーン1杯程度をとるなど、少量をこまめに飲むようにしましょう。
炭酸飲料や柑橘類の飲料は腸を刺激して症状を悪化させるおそれがあるため、控えてください。
飲み物も吐いてしまう場合は点滴を
飲み物も吐いてしまうなど、家庭で水分補給ができない場合は病院を受診し、医師に点滴の相談をしましょう。
体力が弱い乳幼児や高齢者は、脱水症状を起こやすい傾向があります。水分補給がうまくできず、脱水症状が疑われる場合には早めに病院を受診しましょう。
ノロウイルス感染症のときの食事や水分補給、経口補水液の作り方については関連記事をごらんください。

ノロウイルス感染症になったら出勤・出席停止期間はある?
ノロウイルス感染症になった場合、出勤・出席停止期間は法律では定められていません。
しかし、飲食店勤務などの場合は会社によって定めがあるかもしれないため、会社に確認しましょう。
ノロウイルスは感染力が強力なため、感染した場合の調理は避けるべきです。症状がなくなったあとでも1週間程度、長い場合は1か月糞便からウイルスが排出されることもあり、油断はできません。会社の規則に従いましょう。
会社によっては診断書を求められることがあるかもしれません。診断書を発行してもらうにはノロウイルスの検査ができる病院を受診する必要があります。
学校における出席停止期間も定めはありませんが、排便後は丁寧に手洗いをするなど、感染を広げないための配慮が必要です。
ノロウイルス感染症のときの出勤・出席停止について詳しくは関連記事をごらんください。
おわりに
ノロウイルスは少量のウイルスでも簡単に感染してしまいます。
低温で乾燥した空気を好むノロウイルスは冬場にはいつどこで感染してもおかしくありません。
日頃からこまめな手洗いを心がけて予防しましょう。