人食いバクテリアとは?人食いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)の原因・症状・治療法について

2015年に過去最多の患者数が報告された人食いバクテリア(劇症型溶血性レンサ球菌感染症)。 この記事ではその原因と症状をはじめ、治療法と予防法を解説していきます。

はじめに ~人食いバクテリアの年間患者数が過去最多に~

急激に手足の壊死や、多臓器不全をを起こさせることから「人食いバクテリア」と呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」が年々増加しています。

この疾患は、1987年に米国で初めて報告があり、日本では1992年に最初の発症者が報告されました。

国立感染症研究所によると、2015年の全国の患者数はまだ夏場である8月9日までに報告された患者数がすでに279人にのぼり、調査を始めた1999年以降過去最多となりました。また、年末までの今後数カ月でさらに報告数が増えることが予想されています。

都道府県別では、東京都が最も多くて44人、次いで大阪府が28人となっています。

参考資料:国立感染症研究所


「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」は、小児が多くする感染・発症しやすい傾向にあるA群溶血性レンサ球菌感染症(溶連菌感染症・ようれんきん)とは別のものとして区別されています。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は致死率も高く、非常に危険な感染症であり、急激な症状・病態の変化があるため、基礎情報を知っておくことが大切になります。

「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」の症状から対処法までの大切なポイントを解説します。
 

 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の原因

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(人食いバクテリア)は、主にA群溶血性レンサ球菌(Group A Streptococcus)により引き起こされます。

写真は、原因菌の一つである化膿レンサ球(A群レンサ球菌の単一種)PHOTO VIA WKIMEDIA

溶血性レンサ球菌は、α溶血とβ溶血の2種類があり、A群、B群、C群、G群などに分かれ、世界中に数十種存在しているといわれています。

また、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(人食いバクテリア)の原因となるA群溶血性レンサ球菌はそれほど珍しいものではなく、私たちの身の回りに普段から常にいるような細菌です。

A群溶血性レンサ球菌は、主にのどや皮膚など体内に普段からいる常在菌で、咽頭炎などの上気道炎や、とびひなどの化膿性皮膚感染症などの原因菌となり、感染力が非常に強く、しばしば流行を起こします。

A群溶血性レンサ球菌は、通常はのどや皮膚の炎症にとどまることが多いのですが、重症化や合併症も多くみられます。

溶連菌感染症の詳細は関連記事もご参考下さい。

関連記事:溶連菌感染症:発疹の種類、治療法を詳しく解説!
 

特に劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、急激に細菌の毒素が血液で増殖し、敗血症性ショック(全身性炎症)となる病態です。

この普段から身近にいる細菌がまれに人食いバクテリアとも呼ばれるような猛威を人体にふるい、劇症型溶血性レンサ球菌感染症と呼ばれる症状に至ることがあるのですが、なぜそういった重症化・劇症化することがあるのかについての詳細はまだ分かっていません。

 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の感染経路

通常の溶連菌感染症(ようれんきんかんせんしょう)は、咳やくしゃみによる「飛沫感染」と、感染者の手指で触った物を触れ、その手指で口や鼻を触ることによる「接触感染」です。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(人食いバクテリア)は、A群溶血性レンサ球菌が傷口からの直接接触で侵入し、発症します。

皮膚や粘膜から、通常は菌の存在しない筋肉、脂肪組織や血液に菌が侵入することによって劇症化します。

 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発症時期とかかりやすい年齢

A群溶血性レンサ球菌感染による一般的な溶連菌感染症の流行時期は、主に春から初夏と、冬にかけての2度のピークがありますが、劇症型の人食いバクテリアは、季節を問わず、いつ感染するか分からないのが特徴です。

発症しやすい年齢についても、一般の溶連菌感染症は、5歳~15歳の学童期の小児で高く、特に4歳~7歳に多く見られます。

劇症型の人食いバクテリアは、年齢を問わず、子供から大人まで広範囲の年齢層に発症します。

特に30歳以上の男女(50代~60代がピーク)の大人に多く見られます。

免疫不全などの重篤な基礎疾患をほとんど持っていないにもかかわらず、突然発病することも特徴の一つです。

 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の症状

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、皮膚感染症の中では最も重症の感染症です。
骨以外の皮膚や筋膜、脂肪組織などの、軟部組織が壊死する感染症(壊死性軟部組織感染症)の1つです。
 

初期症状は風邪と似ている

初期症状は以下のような風邪様の症状です

  • 突然の発熱
  • 全身倦怠感
  • 四肢の疼痛(手足の筋肉の痛み・腫れ)
  • 喉の痛み
  • 食欲不振、下痢・嘔吐

風邪やインフルエンザと似た症状で非常に判断しにくいという特徴を持っています。
 

急激に全身症状へ進む

初期症状が現れてから、数時間~数日の間に急劇に以下のような全身症状が見られます。

  • 傷口の激痛
  • 血圧低下
  • 手足が赤紫色に変化し、水疱が生じる
  • 主に手足(軟部組織)の壊死
  • 錯乱状態や昏睡
  • 24時間以内に多臓器不全へ進行することもある

このように、日常生活をしていた状態から、急激に病態が進行します。

急性腎不全などの循環不全、血液凝固異常、呼吸不全など、多臓器不全を来たし、急激なショック状態から死に至ることがあります。

特に基礎疾患を持っている患者は、壊死が広範囲に及ぶことがあります。体の細胞が壊死していくことから「人食いバクテリア」という強い俗称が付けられているわけです。

早期に治療を行わないと、約30%が死に至る致死率の高い感染症なため、早急に病院など医療機関にかかり、適切な処置をしてもらうことがキモになります。

 

妊婦は1日で死に至ることも

妊娠中の女性が感染した場合、進行速度が速く、1日で死亡に至るケースが相次いで確認されています。

特に妊娠末期の子宮は、血液が大量に流れ込んでいるため、菌が繁殖しやすく、通常型よりも急激な症状を起こしているのではないかといわれています。また、体力や免疫力が落ちがちであることもその一因と考えられています。

一般に、妊娠末期や分娩中、分娩後、12時間以内に母体に急変が起こり、敗血症性ショックによる子宮循環不全や、常位胎盤早期剝離(じょういたいばんそうきはくり)など、胎児の死亡や、子宮摘出の例などもあります。

組織の壊死に至る間もなく、発症から1日以内で死亡してしまうことがあるため妊娠中の感染予防(マウスの着用、手洗い・うがい、消毒、怪我をした時の適切な対処など)は特に注意が必要です。

 

こんな時にはすぐに受診を

風邪症状を見逃さない

初期症状は風邪やインフルエンザなどど変わりがないため判断は難しいのですが、発熱、筋肉痛、嘔吐などの症状がある場合は、自己判断せず医療機関を受診しましょう。
 

傷口の痛みや腫れ

傷口に痛みや腫れがあり発熱などが見られた場合には、直ちに医療機関を受診して下さい。

皮膚に紫色の水疱がみられると、深部の軟部組織感染を起こしている可能性が考えられるため壊死などまで一刻を争うことになります。

すり傷や切り傷などでも、腫れや痛みを感じたら、軽視しないことが大切です。

 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の治療方法

治療法は、集中管理のもと、第一選択として、ペニシリン系の抗生物質を大量投与します。

ただし、壊死してしまった部分は、菌の生息部位のため、感染の拡大を防ぐために、手術により切除することが必要になります。

早期の治療を開始しなければ、死亡率は非常に高いとされているため、時間との戦いといえます。

 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の予防方法

劇症型溶血性レンサ球菌感染症にワクチンはありません。

日頃から以下に注意しましょう。

  • マスクの着用、手洗い、うがいなど基本の感染予防を徹底しましょう。
  • 傷口からの感染を防ぐために、すり傷、切り傷は洗い流し、消毒や覆うなどして、病原菌が入らないようにすることが重要です。
  • 河川や井戸水、生魚などからの細菌で、人食いバクテリア感染症を引き起こすことがあるともいわれいます。夏場には、海産物にも注意しましょう。
  • あらゆる感染症は、免疫力が低下したときに感染、悪化しやすいため、普段から食生活などに気をつけて体力を高めることが大切です。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、命に関わる前に、風邪症状と、手足の痛みや腫れが見られた時には放置せず、いかに早期に受診するかが鍵となります。

 

劇症型溶血性レンサ球菌感染症に関する感染症法について

感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)は、感染のまん延、拡大を防ぐために、医師は国に指定された感染症と診断した場合、最寄の保健所に届出る事になっています。

あらゆる感染症の流行の時期や地域などの情報(発生動向)が分かるのはこのおかげです。

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、5類感染症に指定され、「国が感染症発生動向調査を行い、その結果に基づき必要な情報を国民や医療関係者などに提供・公開していくことによって、発生・拡大を防止すべき感染症」とされています。

診断した医師は、7日以内に保健所への届出が義務付けられています。

一般的な溶連菌感染症と合わせて、日頃からの感染予防が重要です。

 

さいごに

「劇症型溶血性レンサ球菌感染症」が「人食いバクテリア」といわれる危険な感染症だということがお分かりいただけたと思いますが、残念ながら、なぜ劇症化するかは明確ではありません。

現在、日本での感染者が増加しているため、基礎知識を知り、日頃から予防に努めることが大切です。
 

image by Photo AC

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