医療技術の進歩とエイズを正しく知ろう

日本で初めてエイズ患者が発見されたのは1985年。

 

その当時は「エイズを発症すると死に至る」というイメージが世間を大きく賑わせていましたが、それは昔のこと。

今ではエイズの病態生理や免疫に対する研究が進み、1990年代には母子感染を抑えることができる治療法や抗HIV薬などの開発に成功しています。

 

以前はエイズ発症後の寿命を10年と予測していましたが、デンマークの調査によると、25歳のHIV陽性者(C型肝炎が無いことが条件)の場合、エイズ発症後35年以上の生存が可能という報告もあります。

また、エイズに関連する死亡は、最も多かった2004年以降42%も減少していることが明らかに。

 

 

現在の医療技術では、残念ながらエイズを完治するまでには至っていません。

しかし、国や自治体、医療機関による感染者へのサポートの進歩など、エイズ患者を取りまく状況は劇的に変化しています。

 

HIV感染の有無にかかわらず、エイズについての現在の正しい情報を解説します。

日本のHIV感染者とエイズ患者は推定24,500人

日本の感染者数の現状は、HIV感染者とエイズ患者を合わせて推定24,500人といわれています。

近年、感染者数の数はHIV感染者とエイズ患者ともに横ばい傾向にあります。

それに比べ世界の状況は、2000年の調査で310万人いたHIV感染者も、2014年には200万人という報告もあり、減少傾向にあります。

HIVとエイズの違い

今までHIV感染者とエイズ患者と分けてお伝えしてきましたが、どうして呼び方が違うのか疑問に思った方もいるのではないでしょうか。

そもそも、HIVとエイズ(AIDS)は何が違うのでしょうか?

 

 

HIVは病気ではなくウイルス

HIV(Human Immunodeficiency Virus)は、「 ヒト免疫不全ウイルス」と呼ばれるウイルスです。

 

HIVには1型と2型の2種類があり、世界や日本で拡がっているほとんどが1型です。

2型に関しては、西アフリカの一部に感染が見られますが、少数で感染力が弱く進行も遅いとされています。

HIVは病名や症状ではないため、HIVに感染しただけの場合はHIV感染者と呼ばれます。

HIVに感染後、指定疾患を伴うとエイズになる

エイズの正式名称はAIDS(Acquired Immuno-Deficiency Syndrome)といい、別名「後天性免疫不全症候群」と呼ばれる病名です。

 

人体の中にHIVが入り込んでしまうと、免疫力が低下し、健康な人ではかからない様々なウイルスや病原菌に侵されやすくなります。

その後、エイズ指標疾患に指定されている23種類の疾患のうちのどれか1つでも発症するとエイズ患者としてみなされます。

 

AIDS(エイズ)はHIV感染後、長期間の潜伏期間を経て発症するものですが、発症の判断の指標となる症状があります。
今回はそういった判断に使われる「エイズ指標疾患」をご紹介します。エイズ指標疾患 23の合併症
HIVに感染して免疫細胞が破壊されると健常な時はかからないような病気にかかり

 

 

発症診断に使われる「エイズ指定疾患」にかかかることで初めて「エイズ患者」となるのです。

 

HIV感染の初期症状からエイズ発症まで

私たちの体は免疫によって、ウイルスや病原菌から守られています。

 

免疫の役割を果たしている血液中の白血球のなかでも「CD4陽性細胞」という細胞は免疫チームの大黒柱。病原菌を追い出すために欠かせない存在です。

 

HIVに感染することで血管の中にHIVが侵入してしまうと、HIVはCD4陽性細胞にくっついて増殖しながらCD4陽性細胞を破壊してしまいます。

さらに増殖したHIVによるCD4陽性細胞の破壊がどんどん進行していくと、体の免疫力が落ちエイズ指標疾患の病気になりやすくなるのです。

HIVに感染するとすぐにエイズを発症するわけではなく、エイズを発症するまでには感染初期(急性期)・無症候期・エイズ発症期という経過があります。

初期から発症まで順を追ってみていきましょう。

感染初期(急性期):インフルエンザのような症状

HIVに感染してすぐは、これといって目立った症状はでません。

しかし感染から2週間後ぐらいに、体内でHIVが急激に増殖し始めることが原因で、インフルエンザと同じような症状が起こります。

症状は数日から数週間で治まりますが、個人によってはリンパの腫れが続く場合もあります。

初期症状では、風邪、咽頭炎や扁桃腺炎、気管支炎の症状とも非常によく似た症状がでることも。感染初期はHIV検査をしても正しい判定がでないこともあり、誤診されやすい時期ともいえます。

 

また、初期症状だけで感染の有無を判断することはできないということを覚えておきましょう。

 

≪HIV感染の主な初期症状≫

発熱、喉の痛み、咳が続く、リンパ節が腫れる、慢性的な頭痛、体重が減る、皮膚の発疹、大量の汗をかく、口腔ヘルペスなど。​

無症候期:HIVの潜伏期間

初期症状がおさまってくると、体はHIVを追い出すために抗体を作り始めます。そのため一度増えたHIVが減少し、初期症状がたんだんとなくなっていきます。

その後症状のないHIVの潜伏期間が約5~10年続きます。

 

表面的に症状が治まったかのように見える無症候期ですが、体の中でHIVは毎日増殖を続け、その数は1日100億個とも。免疫力を支える細胞がHIVにより破壊され、一見健康に見える体も徐々に免疫不全状態になっていきます。

 

◼︎エイズ発症前に出るエイズ関連症候群

HIVの長い潜伏期間の後、エイズを発症する前にエイズ関連症候群(AIDS related complex)と呼ばれる症状がでます。発熱、悪寒、寝汗など様々な症状がみられます。

ただし、エイズ関連症候群の症状は、エイズ以外での病気でも起こる可能性があるので診断は難しいとされています。

 

 

 

エイズ発症期:発症前の治療が重要

HIV感染に気づかずに治療しないまま無症候期を過ごしていくと、免疫力の低下により普段は感染しないような病原体による悪性腫瘍、神経障害などが起こります。

そしてエイズ指標疾患を発症した時点でエイズと診断されます。

 

エイズ発症前に治療を受けないと、HIV感染から10年の間に半数が、エイズ発症に至ります。

 

エイズの主な感染経路は、性行為がダントツでNo.1!

HIVは感染力が弱いため、空気中や水中で感染することはありません。

また、通常の日常生活で汗、涙、皮膚から感染することもありません。

 

HIVの感染力が高まるのは体の中にいるとき。HIVは粘膜や血液を通して感染します。

主な感染経路は性行為、血液、母子の3つです。

この中でも性行為による感染が8割以上を占めています

性行為による感染

HIV感染源で最も多いのが性行為です。

女性は膣粘液を通して、男性は性行為中に起こる亀頭部分の細かい傷から、HIVに感染した精液や膣分泌液が侵入して感染します。

 

またアナルセックスやオーラルセックスでもHIVを含んだ体液が粘膜を通じて、感染者から非感染者へうつります。

 

男性同士の性行為では、腸管粘膜から精液にあるHIVが入りこみます。単層の腸管粘膜はとても繊細で傷つきやすいので、HIVの感染リスクが高いとされています。

 

《性行為別の感染率》

性感染症でHIV感染のリスクが高くなる!

HIVに感染する以前に他の性感染症に感染している場合、患部の皮膚や粘膜が荒れているためHIV感染のリスクが数倍高くなります。

さらに、HIV感染後に他の性感染症を発症すると、回復までに時間がかかるといわれています。

心当たりのある行為や症状があった場合、すぐにパートナーと一緒に検査を受けることが大切です。

 

主な性感染症については関連記事をチェックしてください。

 

 

 

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血液からの感染

覚せい剤・麻薬摂取時の注射器や注射針を共有する「まわし打ち」や、医療現場による針刺し事故もHIVの感染経路の一つです。

 

検査目的の輸血は絶対NG!

献血された血液は、安全のために厳格なチェックが行われます。

しかし、HIV感染初期の方が献血された場合、検査をすり抜けてしまう可能性が全くないわけではありません。

輸血される方の安全のために、HIV検査目的の献血は絶対にやめましょう。

出産時に起こる母子感染

HIV感染後に妊娠した場合には、出産時の産道感染・母乳による感染・胎内感染の可能性があります。母親がHIVの感染に気がつかないまま出産した場合、母子感染率は約30%といわれています。

 

妊娠初期に感染を知り、出産時や産後の母子感染を予防する対策を取ることができれば、感染率を0.5%未満にまで下げることが可能です。

HIV感染に関する素朴な疑問 Q&A

日常生活での感染は無いといっても「こんな場合はどうなの?」と疑問がわいてくると思います。HIV感染に関してよくある質問をご紹介します。

 

Q:HIV感染者を刺した蚊に刺されたら感染しますか?

A:蚊によって感染することはありません。蚊の体内でHIVの感染力がなくなります。

 

Q:ネコがエイズにかかると聞きました。ネコのエイズは人間に感染しますか?

A:ネコのエイズはネコ特有のネコ免疫不全ウイルスで、人間に感染することはありません。

 

Q:彼とのキスで感染する可能性はありますか?

A:キスでは感染しません。ただし、口内に傷があり出血している場合は感染の可能性があります。

 

 

感染する前に。自分でできる予防が大切!

エイズが死に直結することは無くなったといっても、HIV感染は人生に大きな影響と変化をもたらします。

自分の体は自分しか守ることができません。

他人事の病気だと思わずに、自分でできる感染予防を心がけましょう。

HIV感染予防のポイントをご紹介します。

性行為のときはコンドームの着用を

異性でも同性同士でも、あらゆる性行為はHIV感染の原因になります。

性行為の際は、必ずコンドームの使用を心がけましょう。正しくコンドームを使用することで、HIVだけでなく他の性感染症の予防にもなります。

女性の場合は、状況に流されずにコンドームの着用をしっかりお願いできる関係をパートナーと築きましょう。

 

また、オーラルセックスの際にも感染を防ぐためにコンドームの使用が大切です。

 

コンドーム生産大国・日本。使用率は世界ワースト3位?!現在、日本は10億個を超えるコンドームを輸出しているといわれ、世界に名だたるコンドーム大国であるといえます。一方で、日本でのコンドームの使用率はわずか42%!なんと世界ワースト3位という不名誉な結果が出ています。この数値は、世界で最もエイズ人口が多いといわれている南アフリカと同等であるといわれてい

 

 

薬物には手をださない!

薬物接種の際の、注射器具の共用はHIV感染の原因になります。

それ以前に薬物摂取の影響により、HIV感染を回避する判断力をも鈍らせてしまいます。

母子感染を防ぐ

母子感染を防ぐためには、できるだけ早い段階で感染を発見し対処することが大切です。

妊娠初期で検査を実施して感染を知る、妊娠中の治療、赤ちゃんへの授乳をしない、など適切な感染予防対策を取ることで、母子感染を限りなく防ぐことが可能です。

HIV感染の検査

​HIVへの感染を調べるために、「HIV抗体スクリーニング検査」が行われます。

「HIV抗体スクリーニング検査」では、1次検査と2次検査の2段階で判定され、2次検査の結果が出るまでに1~2週間を要します。

1次検査では、検査を受けたその日に結果を知ることができる「即日検査」を選ぶこともできますが、即日で結果がわかるのは陰性の場合のみで、陽性の場合は2次の確認検査を受ける必要があります。

 

1次検査で結果が陰性の場合、HIVに感染がないことが確定されます。

陽性の場合には2次検査を受け、陽性の反応が出た場合はHIVに感染していることが確定となります。

 

《HIV抗体スクリーニング検査の流れ》

 

検査を申し込む

検査前のカウンセリング

採血をする(採尿をする場合もあります)

検査結果を1~2週間待つ(即日検査の場合は数時間後)

結果を確認、結果確定後の相談

早すぎてもダメ!検査を受けるタイミングに注意

HIV感染の疑いがあるからといって、すぐに検査すればいいというわけではありません。HIVの抗体が血液中で作られるには数日~4週間、人によっては検出までに8週間ぐらいかかることもあります。

 

検査の時期が早すぎると、HIV抗体が検出されない可能性があります。

感染が疑われるときから3ヶ月以上経過した後に検査を受けましょう。3ヶ月未満で検査を受けることも可能ですが、陰性の反応が出てもその結果は確実に陰性とは限りません。

HIV検査が受けられる場所は保健所・病院・クリニック

HIV感染の検査は、保健所、病院・クリニック等で受けることができます。

それぞれの機関での費用や検査項目の違いを確認しておきましょう。

 

◼︎保健所

 

検査費用が無料、かつ匿名で検査を受られるのが保健所です。

地域によっては自治体の運営による施設でのHIV検査が行われていることも。検査日や時間帯、検査可能な人数などに制限があることや、予約が必要な場合もありますので事前に確認しておきましょう。

 

◼︎病院・クリニック

 

病院やクリニックで検査する場合は、産婦人科、泌尿器科、性病科を受診します。

HIV検査が可能か事前に確認しましょう。

 

医療機関の場合、保健所と比べて費用の負担が多く、診察代・初診料・検査など3000~5000円が目安。

HIV検査では、何らかの症状が表れている場合は保険の対象になりますが、症状が無い場合は保険適用外になることがあります。

 

医療機関のメリットは保健所に比べて、検査日の指定や人数に制限がないこと。

ただし、匿名で検査を受けることができませんのでご注意ください。

 

医療機関によっては、検査結果の証明書や診断書を発行が可能です。

料金や発行の可否については直接問い合わせて確認しましょう。

◼︎郵送検査キット

 

「できるだけ対面は避けたい」「検査に行く時間がない!」といった方は、HIV検査キットを使ってみましょう。インターネットから匿名で申し込みが可能で、結果をサイト上で確認することが可能です。

エイズの治療は早期発見が大切

HIV検査で陽性が確定したら、直ちに医療機関を受診して治療を開始しましょう。

 

国立国際医療センター(エイズ治療・研究開発センター(ACC))を中心に、全国の約380ヶ所で「エイズ治療拠点病院」として、エイズ患者のためのサポート体制が組まれています。

抗HIV薬の服用

残念ながら、現在の医療技術ではエイズを完全に消滅させることはできません。

しかし、抗HIV療法によりエイズ発症の原因となるHIVの増殖を抑えることが可能です。

定期的な検査によるHIVのウイルス量、CD4陽性細胞の数、健康状態などを考慮して治療を行います。

抗HIV薬の飲み忘れに注意

抗HIV薬は決められた時間に正しく飲みましょう。

エイズ治療には、定期的に薬を服用することがとても重要です。飲み忘れが続くと薬が効かなくなり、治療が困難になるので要注意が必要です。

公的機関の制度で医療費や生活費をサポート

全額自己負担の場合、平均的なエイズの治療費は、月に15~20万ほどといわれています。健康保険で3割負担になったとしても、負担は毎月数万円にのぼります。

それに加えて再診料、血液検査、その他合併症での検査料などが加わります。

 

HIV感染者やエイズ治療者の負担を軽減するため、医療費や生活費を援助する制度があります。詳細は厚生労働省のホームページをご確認いただくか、各市町村の公共機関にお問い合わせください。

 

◼︎高額療養費制度

 

長期間に渡って高額な医療費を支払う必要がある疾病を抱える人を対象に定められた医療保険制度。医療機関や薬局窓口で支払った1ヶ月の医療費(月初から月末まで)が、一定額を超えた場合、その超えた分の金額が支給されます。

 

◼︎身体障害者手帳

 

HIV感染者は身体障害者手帳の申請が可能で、病気の状態に応じて1級~4級までの等級で取得できます。

 

◼︎自立支援医療制度

 

自立支援医療制度は身体障害者手帳の交付を受けている「18歳以上」の方が対象で、手術や治療にかかる費用を支援することで、疾病者を社会へ更生するための制度。

 

◼︎重度障害者医療

 

健康保険に加入している方が対象で、重度障害があり医療機関を受診したさいに発生する保険診療費を助成する制度。お住まいの区役所や市役所から配信されている情報を確認しましょう。

日常生活での注意

HIVに感染したからといって、基本的には今までの生活がガラッと変わることはありません。

しかし、感染によって身体や心に負担がかかることは事実。

日常生活の中での注意するべきポイントをご紹介します。

日常で心がけること

HIVの治療中は様々な点で注意が必要です。以下のポイントを押さえておきましょう。

 

・タバコやアルコールは極力控える

・出血したら自分で手当てする

・市販薬やサプリメントの服用は医師に確認する

・日用品の中で血液がつきやすい物の取り扱いには注意する

・旅行中は飲み水の質と薬の飲み忘れに注意!

1人で抱え込まず専門家に相談する

HIV感染やエイズの治療を一人で抱え込むのはとても過酷なことです。

パートナーや家族に言いづらいときは、医療機関の専門家やカウンセラーに相談しましょう。

家族やパートナーに病気のことを伝える際も、病気への正しい知識を伝える準備をしましょう。

プライバシー保護制度

感染症に関する法律では、医療機関による年齢・性別・都道府県・感染原因の報告が義務づけられていますが、名前などの個人が特定できる情報を国に報告されることはありません。

 

医療従事者、自治体職員、健康保険を取り扱う職員など、検査や治療、事務的手続きに関わる人には法律に基づく守秘義務があり、HIV感染がプライバシーが保護されています。

 

おわりに〜まずはHIV検査を

HIVの潜伏期間について、今まで10年の期間があると推測されてきました。

しかし、多くの専門家の間では、日本国内の調査で潜伏期間が急速に短くなっているという報告も聞かれています。

 

HIVウィルスの潜伏期間が短くなったということは、エイズ発症までの時間が早まり、検査での早期発見が難しくなるということです。

 

HIV感染やエイズの発症を他人事と思わず、常に関心を持ち続けることがとても大切です。正しい情報と感染の原因や経路を知れば、感染者への差別や偏見を減らすことにもつながります。

 

エイズは人生に大きな影響を与える病気ではありますが、怖がらすに現実を知り、起こった事実に対処することが重要です。

まずは病気について知り、HIV検査を受けることから始めましょう!