淋菌感染症(淋病)はもう過去の病気ではない

「淋病(りんびょう)」という名で知られている病気は、正式名称は「淋菌感染症」といいます。「性病の代名詞」ともいわれるほど、最も古くからあるSTD(性感染症)の1つで、患者数はクラミジア感染症に次いで多く報告されています。

淋病の感染者は世界中に存在し、抗生物質や、性感染症対策の啓蒙活動などにより、患者数は一時減少していました。しかし、日本では1999年(平成11年)以降連続で増加し、一時減少したかに見えたものの、また近年増加傾向にあります。

淋病の年代別の感染者は、若い世代を中心にどの年代でも年々増加傾向です。

淋病の患者さんは、男性のピークは20代後半、女性のピークは20代前半ですが、10代後半からの感染者も多く、女性の方が男性より低年齢で感染しています。

感染者の男女比は、圧倒的に男性が多い傾向にありますが、これはあくまで報告数でのデータのため、現実には報告数の数倍~数十倍の感染者がいると推測されています。

現在先進国の中で、淋菌感染症が増加傾向を示しているのは日本のみともいわれ、非常にポピュラーな病気として知られています。感染すると完治が難しい面もあり、放置すると重篤な症状や合併症を引き起こすことがあります。
淋病はSTDの中でも感染率が非常に高いため、淋病の症状から対処法までを知っておきましょう。

たった1度の性行為で30%感染!?淋菌感染症(淋病)の原因菌

淋病の病原体は、淋菌(Neisseria gonorrhoeae:ナイセリア・ゴノローエ )という細菌で、性行為などで粘膜に感染します。

淋菌は温かく湿った場所を好み、高温にも低温にも弱く、通常の環境では生存できない弱い細菌です。性器や粘膜から離れると数時間で感染性を失うとされるため、性行為以外で感染することはまれですが、1回の性行為で30%~50%感染するといわれるほど感染力が強い細菌です。

淋菌感染症(淋病)の感染経路はあらゆる性行為

淋病は、あらゆる性行為(セックス、アナルセックス、オーラルセックスとその類似行為)で感染し、ペニス、膣、肛門、口の接触による広がります。射精という行為が無くとも接触だけでも感染します。

多く見られるのは、性風俗でのオーラルセックス(フェラチオ)による感染で、近年はオーラルセックスが一般化したことで、咽頭部(のど)の感染や保菌が増加し問題になっています。

その他、まれに感染者の衣服やタオルから感染することもあります。

また「母子感染」として妊娠中に淋病に感染している場合、分娩時に赤ちゃんに産道感染することがあります。

淋菌感染症(淋病)の潜伏期間は男性と女性で異なる!

潜伏期間とは、淋菌に感染してから症状が出るまでの期間です。

女性の潜伏期間は不明確

女性の場合は感染してもほとんど自覚症状が無く、特徴的な症状が出ない場合が多いため、潜伏期間が明確ではなく保菌状態のケースが多くあります。そのため女性は感染に気付かず、感染源になることが多いとされています。

男性の潜伏期間=2~7日

男性の場合、多くは2~7日の潜伏期の後に発症します。男性の症状は比較的分かりやすく、短時間で発症しますが、中には潜伏期間が30日以上や、無症状で経過することもあるようです。

4:1といわれる男女比 …本当は女性も多い?!

男女比では4:1で圧倒的に男性が多い傾向にありますが、これは女性の場合、感染に気づかず病院に行っていないためと考えられています。

淋病はセックスの経験があれば誰でも感染する可能性があるため、「すでに感染している…」「これから感染する…」ことは十分にあり得るのです。

淋菌感染症(淋病)の症状は合併症に要注意!

淋病は、性器のかゆみや腫れ、膿(うみ)が出るなどが特徴ですが、淋菌は増殖力が強く、感染部位から淋菌が体の中をさかのぼって広がる「上行性感染」を起こしやすく、未治療のまま放置すると、男性も女性も重篤な合併症を引き起こすことがあります。

女性の淋病の症状

女性は以下の症状により、膀胱炎や生理トラブルと間違われることがあります。

・おりものが増える
・性器のかゆみや腫れ
・おりものに膿が混じる、悪臭がする
・不正出血
・下腹部の痛み
・排尿痛や残尿感
・性交時痛

女性に起こりやすい淋病の合併症

女性の上行性感染の経路は、膣→子宮頚管→子宮内膜→卵管→骨盤内→腹膜へと、気付かないうちに炎症が広がっていき、以下の合併症がよく見られます。

・淋菌性子宮頚管炎…膣にとどまらず子宮頚管への感染が多い
・骨盤内炎症性疾患(PID)…子宮から骨盤内へと感染が広がる

「骨盤内炎症性疾患(PID)」は、発熱や強い下腹部痛が起こり、卵管に膿が溜まることがあり、不妊症や子宮外妊娠の原因になるともいわれています。

その後「腹膜炎」を引き起こすとさらに不妊症になりやすく、激しい腹痛を繰り返すことになり、さらに感染が上腹部にまで達し、肝臓の周囲にまで炎症を起こすことがあります。

男性の淋病の症状

男性が主に感染するところは尿道で、以下の症状が特徴です。

・尿道のかゆみ、熱感
・尿道から黄色のドロっとした膿が出る
・激しい排尿痛
・勃起時に痛む
・ペニスや睾丸が腫れる
・発熱

男性に起こりやすい淋病の合併症

男性の上行性感染の経路は、尿道→前立腺→精巣上体へと炎症が広がっていき、以下の合併症がよく見られます。

・淋菌性尿道炎…尿道口の腫れ、多量の膿、排尿痛
・淋菌性精巣上体炎…発熱、陰嚢(いんのう)が腫れる、激しい痛み

「精巣上体炎」を起こすと、痛みにより歩行困難になるほど重症化することがあり、発熱や全身症状を伴うことがあります。また無精子症になる場合があり、男性不妊の原因になる可能性があるとされています。

男女ともに起こりやすい合併症

男女共に「尿道炎」は発症しやすく、その他「直腸炎」「結膜炎」「関節炎」「肺血症」などが見られます。特に目の感染は失明する場合もあり、肺血症となると死亡することもあります。

このように、淋病は性器のみならず重篤な全身症状を引き起こすことがあるため、いかに放置しないかが大切です。

無症状が多い咽頭(のど)の感染は自分が感染源にも!

男女ともにのどの感染は自覚症状が無いことが多く、のどの腫れや痛みが出た時には、風邪に似ているため、淋菌感染とは気付かないことが多いです。

性器に淋菌が感染している場合、男女の約30%は、咽頭からも淋菌が検出されています。口は感染部位だけでなく、感染源としても大きな影響があり、のどは性器よりも治療に時間がかかるといわれています。

淋病の30%はクラミジアも感染!HIVのリスクも高い?!

STD(性感染症)の感染ルートは、ほとんどが性行為によるもののため、ひとつのSTDに感染したら、他のSTDも疑う必要があります。

淋菌に感染した人の約30%は、クラミジア感染症に同時感染しているとされています。またHIV感染症に重複感染するリスクが何倍も高くなるといわれ、大変危険です。

妊娠中の淋病感染は赤ちゃんに影響も!

妊娠中に感染した場合、約30%の確立で分娩時に赤ちゃんへの産道感染が見られます。胎内感染や、出産後の母乳感染はないとされていますが、胎盤内の感染により、流産や早産、破水の原因になることがあります。

また生後2~4日で目に影響がでる「新生児結膜炎」では失明の危険があります。

その他、関節や血液へも感染の可能性があり、命に関わる事態になることもあるため、妊娠中はしっかり検査を受け、分娩までには治療することが重要です。

淋病は早めの検査を!気になる検査方法Q&A

Q:淋病はどんな検査をするの?

A:淋病の検査方法は、いくつかありますが、淋病のDNAを検査する「PCR法」や「SDA法」という遺伝子検査が一般的です。
男性の場合は、膿の状態や尿検査(初尿)でも診断できることがあります。女性の場合は膣やのどの奥を綿棒(スワブ)で拭って検査します。
また、うがい液から遺伝子検査等を行う「うがい液検査」もあり、患者の負担が少なく広範囲において検体が採取されやすいとされています。いずれも淋病は性器と咽頭(のど)の検査が必要です。

Q:病院はどこに行けばいい?

A:女性は婦人科がオススメです。婦人科であれば、膣や子宮頚部なども詳しく診てもらえます。男性は泌尿器科、皮膚科へ相談しましょう。
性病科には行きたくない…と迷っているうちに悪化することが多いため、自分の行きやすい病院へ早めに受診することがポイントです。

Q:無料でできる検査はあるの?

A:淋病の検査は全国の保健所や自治体の施設でも行われており、匿名で受けられ、原則無料となっています。ただし検査の日時や1日の定員が決められているなど、各保健所で異なります。また、検査結果の通知は面談で行われるため、電話での問い合わせや郵送での結果通知はできません。日時や詳細はお近くの保健所に確認しましょう。

Q:自分でできる「性病検査キット」とは?

:自宅で手軽にできる検査方法に「性病検査キット」があり、以下のような特徴があります。

・病院・保健所にわざわざ行かなくていい
・匿名で誰にも知られずにできる
・初心者でも採取が簡単。採取に失敗しても無料で再送できる
・検査の精度が高く、他の気になる性病も同時に検査できる

郵送する際も、外からは中身が分からないため、プライバシーも守られます。いつもと違う…感染している可能性が高い…出来れば病院へは行きたくない…このままじゃマズイかも…そんな時に、性病検査キットは手軽に早期チェックができます。

Q:性病検査キットの手順は?

A:検査キットは、ネットで検査キットを購入し、自宅で血液や粘膜など検査に必要な検体を採取します。採取した検体を郵送すると「登録衛生検査所」で検査し、検査結果はメールや郵送で確認できます。

結果までの日数は、購入から到着までが1~3日、検査の結果が1~3日程度のため、トータルの日数は約1週間くらいが必要です。

Q:検査キットは信頼できる?

A:性病検査キットはあまりにも手軽なため、信頼性が気になりますが、検査は国や地自体から認可を受けている「登録衛生検査所」といわれる専門機関で行います。

検査方法は病院や保健所と全く同じ方法で、検査の精度や信頼性も同じです。

ただし性病検査キットには、海外から個人輸入などで入ってくるものもあり、それらは粗悪品も多いため、海外からの性病検査キットは使わないようにしましょう。

Q:どんな検査キットを選べばいい?

A:性病検査キットを販売しているメーカーはいくつかあり、キットの種類もたくさんあります。淋病検査のみのキットもありますが、クラミジア感染症やHIVなど、他の性病も同時に検査できるキットもあります。
性病検査キットは、メーカーごとに、検査できる性病の種類や価格に違いがあるため、自分の状況に最適なものを選びましょう。

Q:検査キットのデメリットはあるの?

A:手軽で便利で検査の精度も良いとされる性病検査キットですが、以下に注意が必要です。
・陽性反応が出た場合、病院での再検査が必要
・対面のように詳細を聞けない
・陽性の場合、すぐに治療ができない

このように、検査キットはあくまでも検査のみのため、明らかに自覚症状がある場合は、早急に病院へ行きましょう。

淋菌感染症(淋病)の治療は抗生物質

淋病は、抗生物質で治療しますが、近年治療法が変わってきています。
以前は飲み薬が主流でしたが、現在は、以下のような抗生物質の注射薬が推奨されています。

・セフトリアキソン(静脈注射)
・セフォジジム(静脈注射)
・スペクチノマイシン(筋肉注射)

このような注射や点滴治療の場合は1回で済むこともありますが、飲み薬と併用したり、完全に除菌できるまで数回行うこともあります。

抗生物質が効かない「耐菌性」が増えている!

近年、抗生物質の乱用から、淋病の治療に使われていたペニシリンやテトラサイクリン系などこれまで有効だった抗生物質が効かない「耐菌性」の淋菌が増えており、治療薬がかなり限定されています。
内服薬については、効果がある程度期待できるものを選択しますが、今後も耐菌性の淋菌は増える可能性があるとされ、治療が難しくなることが問題とされています。

「淋病に感染しても抗生物質で治療できるから…」などの安易な考えは危険だということを知っておきましょう。

症状が無い=完治ではない?!

淋病は症状が消えても粘膜内に淋菌が潜伏していることがあるため、症状が無いから完治しているとは限らず、再発率も高い病気のため、治療が終了した後、1週間後に確認検査を行います。
淋菌が完全になくなる前に途中で治療を中止すると、完治しない可能性があります。自己判断で治療をやめず、しっかり治療することが大切です。

淋病の治療薬は医師の処方のみ

淋病の治療薬は、医師の処方でしか手に入りません。

ドラッグストアなどでは淋病に効く抗生物質は販売していないため、治療は病院で、注射や飲み薬を処方してもらいましょう。
また、安易に海外輸入の薬を購入して服薬することは、絶対に避けるようにましょう。信頼性が不明のため、更に健康被害を招く危険があります。
淋病の薬は、きちんと医師から薬を処方してもらうことが重要です。

淋菌感染症(淋病)は自然治癒する?

淋病はまれに他の感染症と同時感染している際に、その治療による抗生物質が淋菌にも有効で、一時症状が治まることがあります。ただしこれは淋菌が完治したとは言えず、自然治癒したと勘違いすることにより後遺症が残ることがあります。
淋菌は潜伏状態になることが多いため、自然治癒を待つなど放置しないことが大切です。

淋菌感染症(淋病)の予防にワクチンはありません

現在、淋病にワクチンはありません。HIVのワクチンも開発中で、まだ実用までには時間がかかるとされているため、日頃の予防が重要です。
淋病をはじめとするすべてのSTDは、必ず相手があることです。自分とパートナーを守るために、最低限以下を心がけましょう。

コンドームはオーラルセックスの時も使用する

淋病の第一の予防法はコンドームの使用ですが、オーラルセックスではほとんどコンドームを使わないために、咽頭感染が増えて感染が広がっています。オーラルセックス時にもコンドームを使用しましょう。

感染が分かったら性行為は控える

コンドームでカバーできない部分に感染している場合、そこに接触して感染してしまう可能性があります。第一の予防法は必ずコンドームを使用することですが、100%予防できるという保証はありません。感染している場合は、治療が完了するまでキスや性行為は控えましょう。

多数との性行為を避ける

「いつ感染したか分からない…」これが淋病をはじめとするSTDの最も多い問題です。自覚症状が無い場合も多く、お互いに感染していないと確認できた場合以外は、いつでも感染する可能性があるため、なるべくパートナーを限定することが大切です。

性器や口腔内を清潔に

性器や口の中は様々な病原菌が付着しているため、日頃から口内や身体を清潔にし、特にセックスの前後には汚れを洗い流しましょう。
また日頃から、自分とパートナーに性器の不快感や異常がないかを確認することも大切です。

パートナーも必ず検査を

パートナーのどちらかが発症したことに気づいた場合、自分だけ治療しても、相手も感染している場合が多いため、またキスやセックスをすれば再感染を繰り返します。

感染が分かったら相手に症状が出ていなくても、パートナーにも検査することをすすめ、重症化する前に治療を開始することが大切です。

おわりに

淋病はその昔、不治の病といわれるほど恐れられた病気でしたが、現在、STD(性感染症)はあまりにもポピュラーすぎて、軽視しがちな面が見られます。

これだけ医学が進歩しても、今度は耐菌性の問題も出てくるなど、淋病は厄介で重要な病気であることに変わりはないようです。他人事でないかもしれないため、淋病の症状や対処法などを知っておく必要がありますね。