関東地方はまだ梅雨空ですが、そろそろ心は海!という人も多いのではないでしょうか?
沖縄・九州・西日本を中心に、すでに海開きしている海水浴場もあるようです。

海遊びや、ビーチリゾートへの旅行の前におさえておきたいのがクラゲ対策!
お盆明けまでは大丈夫と思っている方も多いかもしれませんが、地方によってクラゲの出没シーズンは異なり、夏休みは南の島でマリンスポーツ三昧という方は、現地のクラゲ事情も予習しておきたいものです。

クラゲに刺されたときの応急処置法や、どんな時に病院へ行くべきなのか、そもそもクラゲに刺されないための対策などを、この記事では紹介します。

image by U.S. National Oceanic and Atmospheric Administration
 

すぐに救急車を呼ぶか、救急外来を受診すべきケース

「ハコクラゲ」に刺された場合

ハコクラゲ(箱水母)はその名のとおり、箱のようなベル(カサ)の4カ所から出る触手(本数は種や個体によってさまざまです)が特徴のクラゲで、主に熱帯・亜熱帯の温かい海に分布し、猛毒な種が多いことで知られています。

image by Forgerz via wikimediacommons

特に、オーストラリア近海に生息するイルカンジクラゲの仲間(Carukia barnesiMalo kingi)は、激しい痛みと嘔吐、急激な血圧上昇を特徴とする「イルカンジ症候群」の原因となることで知られています。
イルカンジクラゲは小型のクラゲで、カサの部分は5~25mmほどしかありませんが、4本の触手は数センチから、長いものでは1mほどになります。
カサと触手に、赤いブツブツした刺胞(しほう)があり、獲物と接触すると毒を射出します。クラゲの多くは触手にしか刺胞を持ちませんが、カサにもあるのがイルカンジクラゲの特徴です。

image by GondwanaGirl via wikimedia commons

イルカンジ症候群はすぐに医療機関で適切な処置を受ければ、予後は良好ですが、手当が遅れた場合は死亡例も報告されています。

イルカンジクラゲのうち、イルカンジ症候群を起こすことが確認されているのは現在のところオーストラリア近海のCarukia barnesi、Malo kingiのみですが、ほかの種も刺されればイルカンジ症候群を起こす可能性は否定できません。また、以前はオーストラリア北部にしか生息しないと思われてきたイルカンジクラゲがフィリピンやマレーシア、フロリダ近海などにも生息することが近年になって確認されています。

ハコクラゲのうち特に危険な種は主にインド太平洋が生息地となっていますが、日本にも沖縄・奄美に生息するハブクラゲ(Chironex yamaguchii)という猛毒のハコクラゲがいて、死亡例もあります。

image by OpenCage via wikimedia commons

ハブクラゲは沖縄県ほぼ全域で5~10月頃に発生し、特にクラゲが大きくなる7~9月に被害が多くなります。
成長するとカサは10cm以上、触手は150㎝以上になりますが、カサが半透明のため見つけにくく、水深50cmほどの浅い場所まで小魚を求めて入ってくるため、浅瀬で遊ぶお子さんにも注意が必要です。

 激しいアレルギー反応(アナフィラキシーショック)が見られる場合

呼吸困難、激しい胸痛、嘔吐、痙攣、意識がない場合などにはCPR(心肺蘇生法)を行い、迷わず救急車をよびましょう。

刺された範囲が広範囲にわたる場合

腕や脚全体、顔全体、性器全体など広範囲に炎症が起きている場合は、救急車を呼ぶか、迅速に医療機関を受診しましょう。

乳幼児、高齢者

お子さんが刺された場合、救急ではなくても翌日にでも小児科または皮膚科へ連れていった方がベターです。特に生後1年以内の赤ちゃんの場合は救急車を呼ぶか、すぐに病院へ連れていきましょう!
体力の落ちたご高齢の方の場合も同様です。また、妊娠中の方も、市販薬を使わない方がよいケースなどもありますので、主治医に相談した方がよいでしょう。
 

真水は厳禁?クラゲに刺された際の応急処置と、その後の治療法

刺されたらすぐに海から出ましょう

刺されてパニックを起こし、溺れる可能性もあります。遊泳中などに近くで人がクラゲに刺されたときには、落ち着かせ、岸まで誘導して救助しましょう。

酢または海水でよく洗い流し、触手と刺胞を取り除きましょう

ハコクラゲに刺された場合、お酢(5%酢酸水)で最低でも30秒洗い流し、酢につけた状態で医療機関へ連れていきましょう。
オーストラリア北部など、危険なクラゲの生息地ではビーチに救急用のお酢が用意されているところもあるので、刺された際は利用してください。
また、ライフガード(ライフセーバー)が応急処置用の抗毒素(筋肉注射します)やアナフィラキシー用のエピネフェリン(アドレナリン)を用意している場合もあります。
ライフガードがいるビーチでは、必ず声をかけ、クラゲ(「Jellyfish」、ハコクラゲの場合は「Box Jellyfish」)に刺されたことを伝えましょう。


image by flickr user Michael Coghlan

医療機関が近くになく、すぐに処置を受けられない場合、触手を取り除こうとする前に最低でも10分間、刺された部分を酢に浸します。

触手をとる際にはピンセットや木の枝などを使い、あればゴム手袋や厚手の軍手などを着用し、素手では触らないようにしましょう。
刺されたのが腕や脚の場合は、包帯をきつめに巻くなどして、毒の広がりをおさえます。ただし、完全に血流が止まることはないように注意してください。

ハコクラゲ以外のクラゲの場合も、酢で最低30秒洗い流したのち、素手を使わずに触手を取り除きます。

酢が手に入らない場合、ハコクラゲの生息域以外(寒い地方の海)でクラゲに刺された場合は、消毒用アルコール(70%イソプロピレンアルコール)や重曹(ベーキングソーダ)を溶かした海水も有効です。やはり最低30秒洗い流します。重曹などもなければ海水で洗います。水道水や真水は刺胞を刺激し、毒の射出を促進する可能性があるため避けてください。

皮膚に残った刺胞はシェービングクリームとカミソリで除去しましょう

触手をはがしても、皮膚には刺胞(触手の表面にある毒針の入った小さな袋)が残っています。
シェービングクリームを塗り、カミソリで皮膚の表面をそぐようにして除去しましょう。

シェービングクリームがない場合は重曹(ベーキングソーダ)に海水を混ぜてペースト状にしたものや、重曹もない場合は濃いめに泡立てた石鹸を使います。カミソリがなければクレジットカードやポケットナイフなどで代用できます。

患部をお湯に浸す、またはアイスパックで冷やす

上記の刺胞除去作業を行ったあとに、45℃程度(熱めのお風呂くらい)のお湯に20分ほど浸します。

お湯が用意できない場合は患部をアイスパックなどで冷やしてもよいでしょう。ただし、患部が広範囲の場合、寒い海からあがって体がすでに冷えている場合などには、低体温症に注意し、毛布などで全身をしっかりくるんであげてください。

なお、クラゲに刺されて腫れた部分を冷やすことは最初に思いつく応急処置かもしれませんが、酢などによる洗浄や刺胞の除去を行う前にいきなり冷水などで冷やすのは毒の放出を促進してしまい、逆効果な場合がほとんどです。いきなり冷やすのはNGと覚えておきましょう!

目や口の中を刺された場合

目に触手が触れた場合、目薬(人工涙液タイプ)をたっぷり点眼し、あれば眼用の洗浄液を使い、刺胞を洗い流しましょう。
酢にひたしたタオルやコットンでやさしく目の周囲の皮膚をふき(こすらないでください)、目の中には酢が入らないように注意してください。

口の中を刺された場合、酢を水で4倍に薄め、うがいを繰り返します。飲み込まないでください。
口腔から喉にかけて腫れがひどい場合は、気道を確保し医療機関へ連れていきましょう。

痛みや腫れには抗ヒスタミン薬や鎮痛消炎剤を使用

適切な応急処置を行ったあとは、対症療法として腫れた部分を冷やしたり、痛み止めにアセトアミノフェン(カロナールタイレノールなど。15歳未満のお子さんの場合は、第一選択になります。北米以外の英語圏やヨーロッパでは「acetaminophen」より「paracetamol」の呼称が一般的ですが、「Tylenol」が欲しいと言えば通じることが多いほか、オーストラリアでは「Panadol」ブランドが普及しています)や、イブプロフェン(イブA錠リングルアイビーなど。海外では「ibuprofen(アイープロフェン、とにアクセントをおいて言うと通じやすいです)」または「Advil」「Motrin」「Nurofen」などを探しましょう)、アスピリン(バイエルアスピリンなど)、ロキソプロフェン(ロキソニンなど。ブラジル、メキシコを除き海外では手に入りにくいです)などのNSAIDsを使用します。

かゆみや腫れには抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミンなど:鼻炎薬や酔い止め薬の成分です。英語圏ではアレルギー薬の「Benadryl」や酔い止めの「Dramamine」などが手に入りやすいです)を服用します。ヒドロコルチゾン(コルチゾール:ステロイド系抗炎症薬)入りの軟膏も有効です。

後日医療機関を受診する場合は、皮膚科が基本です

ハコクラゲなど猛毒のもの以外のほとんどのクラゲは、刺されて5分ほどで痛みのピークが来て、24時間ほどで痛みはおさまってきます。
数日たっても症状がひかない場合、悪化した場合や、発熱などなんらかの感染を起こしたと考えられる場合は、医療機関を受診してください。

診療科は、通常は皮膚科(お子さんの場合は小児科)になります。

海外で医療機関を受診する際は、「クラゲ刺傷」は英語で「Jellyfish Sting」。「クラゲに刺された」は「I got stung by a jellyfish」といえば通じます。
 

要注意!「カツオノエボシ」の場合は酢は使えません!

カツオノエボシなどのクダクラゲ目は刺胞動物門ヒドロ虫綱(しほうどうぶつもんひどろちゅうこう)に属しますが、ミズクラゲなど英語で「Jellyfish」と呼ばれるいわゆるクラゲは刺胞動物門鉢虫綱(しほうどうぶつもんはちむしこう)に属します。
一匹に見えるカツオノエボシは、実は多くの多くのヒドロ虫が集まって形成された群体です。

image by U.S. National Oceanic and Atmospheric Administration

カツオノエボシに刺されると強烈な痛みがあり(電気ショックのような激痛から通称「電気クラゲ」とも呼ばれます)、皮膚は炎症を起こし、ムチで打たれたあとのミミズ腫れのように腫れ上がります。
また、カツオノエボシは二度目に刺されるとアナフィラキシーを起こし、ショック死する危険もあるため注意が必要です。

前述のハコクラゲや、日本沿岸で刺されることの多いアンドンクラゲ、アカクラゲなどとは異なる仲間のため、手当ての方法も異なります。

刺されたらまず海から上がることはほかのクラゲと同様ですが、カツオノエボシの場合は酢を使うと刺胞が反応し毒が出てしまうため、海水で洗い流し(真水も避けましょう)触手を取り除きます。
海水の勢いだけで触手を除去できない場合は、焦らずに厚手の軍手や木の枝などを使い、絶対に素手で掴まないようにしましょう!

海水でよく洗ったあと、応急処置として45℃程度(熱めのお風呂くらい)のお湯に15~20分程度浸します(冷水や氷で冷やすより効果的と言われています)。
刺された本人は痛みでお湯の熱さを感じなくなっているかもしれないので、火傷を防ぐため、必ず救助者が温度を確認してあげてください!お湯を足すときも、必ず救助者が触って温度を確認しましょう。

その後、できるかぎり医療機関を受診しましょう。対症療法として痛み止めにアセトアミノフェンやイブプロフェン(お子さんの場合はアセトアミノフェン)の飲み薬を使用したり、皮膚炎には抗ヒスタミン剤(ジフェンヒドラミンなど:鼻炎薬や酔い止め薬の成分です)を服用したり、ヒドロコルチゾン(コルチゾール:ステロイド系抗炎症薬)入りの軟膏を塗ります。

海外でカツオノエボシに刺され医療機関を受診するときは「Portuguese Man O' War(ポーチュギーズマノウォー)」または単に「Man-of-War」に刺されたと伝えましょう。
 

「おしっこをかける」は誤った俗説です!

低濃度のアンモニア水が、クラゲに刺された患部の洗浄に使えることから来る俗説だと思われますが(「キンカン」などのかゆみ止めにはアンモニア入りのものが多数あります)、尿をかけるとかえって刺胞を刺激して毒が射出される可能性や、感染症の原因となる可能性もあり、逆効果です!
アメリカでは90年代の人気ドラマ「Friends」でMonicaがクラゲに刺されJoeyがおしっこをかけたというエピソードもあった影響か、かなり浸透している俗説のようですが、親切心からかけてくれようとする人がいても絶対に断りましょう!

また、ほかの手段がない場合には砂をこすりつけて刺胞を取り除く応急処置法もありますが、これも感染症の原因になったりかえって毒素を広げる可能性もあるため、お勧めできません。
 

クラゲに刺されないためにおさえておきたいポイント

◆クラゲネットのある海水浴場で泳ぐ

◆夏場でもウェットスーツや長袖Tシャツ、スパッツなどで肌の露出をできるだけ少なくする

image by freeimages

◆夕方や夜の遊泳・シュノーケリング・スキューバダイビングなどでは海面をよく見てクラゲが浮いていないことを確認してから入る

◆打ち上げられたクラゲを拾わない(クラゲが死んでいても刺胞は毒を射出する場合があります。ひからびていても安心はできません)

きれいなクラゲはお子さんの好奇心をそそるので、浜遊びの際は注意してあげてください。

image by freeimages

打ち上げられたカツオノエボシも同様です。


image by freeimages

◆「Safe Sea®」などのクラゲよけローションを塗布する

クラゲが近寄って来なくなるのではなく、クラゲと接触しても刺胞が反応しないようにするローションです。
日焼け止め効果もあるものなどが、サーフショップやドラッグストアなどで販売されています。

◆海へ行くときは、救急セットを持参する

消毒用アルコールやピンセット(触手を除去する際にも使えます)、包帯、ばんそうこう、かゆみ止め(クラゲ刺傷にも有効な市販のかゆみ止めとしては、局所麻酔効果のあるリドカイン塩酸塩と抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン塩酸塩が配合された「ウナコーワエース」などがお勧めです)、軟膏、体温計、解熱鎮痛剤(アセトアミノフェンやイブプロフェン)などの基本的な救急セットに加え、抗ヒスタミン薬(アレルギー性鼻炎や乗り物酔いの薬でOKです)、アイスパック(叩くと衝撃で冷たくなるタイプのものなど)があると、クラゲに刺されたときのほか、熱中症・日射病、ビーチでの怪我などにも対応できます。

特にお子さん連れで海水浴に行くときには、アクシデントに備えて持参しておきたいですね!
 

おわりに~生態系保護のためにも、海の生き物にはとにかく触らないことが基本です!

海中にはクラゲ以外にもイソギンチャクなど、接触すると刺されたり、かぶれたりする生物はたくさんいます。
水族館で見るクラゲはとても綺麗ですが、海で遭遇した際にはとにかく近寄らないようにしましょう!
クラゲはユラユラとゆっくり海中を漂っているイメージがあるかもしれませんが、ハコクラゲなど危険なクラゲの中にも、秒速6mもの速さで移動できる種もいます。

人間との接触はバクテリアや寄生虫から海洋生物を守っている保護膜を擦り落としてしまったり、ストレスとなったり、サンゴなどは少し触るだけで折れて死んでしまうこともあります。
熱帯魚やサンゴをはじめ、海の生き物を観察するのが目的のダイビングやシュノーケリングの際には、ウェットスーツや手袋などでしっかり皮膚を防護したうえで、できるだけ触ったりぶつかったりしないようにしましょう!