2012年12月、食物アレルギーによって小学生が死亡
2012年12月、東京都調布市立富士見台小学校で小学5年の女児が、給食を食べたあとにアナフィラキシーショックを発症し、死亡したというニュースが報道されました。
女児のアナフィラキシーショックは食物アレルギーによるもの。
女児は、乳製品に食物アレルギーを持っていましたが、給食のメニューの中に原因となる食物が入っていたことに気づかず食べてしまったために命を落としてしまったのです。
食物アレルギー反応を起こすと皮膚がかゆくなる、湿疹がでる、呼吸困難になるなど、様々な症状を引き起こします。
最悪の場合、命の危険にまでさらされる食物アレルギー。
原因、種類、症状、検査など、この記事では食物アレルギーについて詳しく解説していきます。

食物アレルギーの原因は食物のタンパク質
食物を食べる・飲む・吸うことをきっかけに引き起こすアレルギーのことを、食物アレルギーといいます。
食物アレルギーの原因となる物質をアレルゲン(原因食物)といいます。アレルゲンが体内に侵入すると、身体をまもるための免疫システムが過剰反応を起こし、結果的に身体にとって有害な反応を起こします。
アレルゲンは、食物のタンパク質の中にあり、糖質や脂質を食べただけでは食物アレルギーをおこすことはありません。
食物アレルギーを発症した人の中でも、とりわけ原因食物として多いのが鶏卵、牛乳、小麦の3つ。この3つは3大アレルゲンとも呼ばれています。
厚生労働科学班がある年におこなった「全年齢における即時型食物アレルギー全国モニタリング調査」の結果によると、食物アレルギーのアレルゲンは鶏卵、牛乳、小麦がトップ3をしめていることがわかります。
一見、タンパク質のイメージとは離れている果物類なども原因食物となっており、実に幅広い食物が食物アレルギーのアレルゲンになっています。
また、年代別でもアレルゲンとされる食物に傾向がみられます。
乳幼児ほど、3大アレルゲンの影響を受けやすく、学童期あたりから徐々にアレルゲンになりうる食品の幅が広がっていきます。
食物アレルギー患者の多くが6歳以下の乳幼児
食物アレルギー患者の80%近くが6歳以下の乳幼児だといわれており、1歳未満の子どもに限れば10〜20人に1人が食物アレルギーを発症させています。
食物アレルギーのアレルゲンはタンパク質。
子どもは消化機能が未熟なため、タンパク質を小さく分解することができず、食物アレルギー反応を起こしてしまう場合が少なくありません。
食物アレルギーに限ったことではありませんが、近年、アレルギー症状を持つ人の割合が増加傾向にあります。理由は様々ですが、食物アレルギーの場合は食生活の影響が大きいと考えられます。
近年、肉食中心の欧米食が主流となり、タンパク質を摂る機会も増えてきました。更に、野菜を食べずに偏食になったり、外食、インスタント食を摂る機会もひと昔に比べると格段に増えています。
また、幅広い食品に使われている食品添加物は身体を酸化状態にさせるため、免疫力を低下させます。その結果、アレルギー耐性の弱い身体になってしまいます。
子どもの食生活は保護者がまもるしかありません。
なるべく添加物の入っていない食材を使い、栄養バランスを考えた食生活が望まれます。

症状が全身に及ぶ食物アレルギー
食物アレルギー反応が起こると、身体の各部位には以下のような症状があらわれます。
【皮膚症状】
かゆみ、蕁麻疹、赤み、湿疹
【粘膜症状】
眼症状:目の充血・腫れ、かゆみ、流涙、まぶたの腫れ
鼻症状:くしゃみ、鼻みず、鼻づまり
口腔咽頭症状:口・唇・舌の違和感・腫れ、のどの痒み・イガイガ感
【消化器症状】
腹痛、悪心、嘔吐、下痢、血便
【呼吸器症状】
喉が締められる感覚、声がれ、咳、ぜん鳴、呼吸困難
【循環器症状】
脈が速い、脈がふれにくい、脈が不規則、手足が冷たい、唇や爪が青白い(チアノーゼ)、血圧低下
【神経症状】
元気がない、ぐったり、意識もうろう、不機嫌、尿や便を漏らす(失禁)
【全身症状】
アナフィラキシー
これらの中でも最も多いのが皮膚の症状です。食物アレルギー症状を発症した患者の9割近くの人が、なんらかの皮膚症状をうったえていたというデータもあるほどです。
アナフィラキシーショックに要注意!
食物アレルギーは、症状の度合いによっては命の危険にさらされます。
最も恐ろしいのがアナフィラキシーショックです。
アナフィラキシーとは、皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、循環器など、身体の全身に影響を及ぼし、極めて短い時間で身体全体に影響を及ぼすアレルギー症状が出る反応です。
アナフィラキシーショックは、食物アレルギー反応による全身症状から意識障害や血圧の低下を引き起こし、時には命に関わる重篤な症状に発展するほどの状態です。
もしも原因食物を食べた・飲んだ・吸ったことによって下記のような症状が出たら要注意です。
全身の症状
- ぐったり
- 意識もうろう
- 尿や便をもらす
- 脈がふれにくい・不規則
- 唇や爪が青白い
呼吸器の症状
- 喉が締められる感覚
- 声がかすれる
- 犬が吠えたような咳
- 息がしにくい
- 持続する強い咳き込み
- ゼーゼーする呼吸
消化器の症状
- 我慢できないほどの持続する腹痛
- 嘔吐を繰り返す
全身の症状・呼吸器の症状・消化器の症状からなる13症状のうち、1つでもあてはまるようならただちに救急車を呼ぶ必要があります。
重篤な症状の場合、もし内服薬やエピペン(アドレナリン自己注射薬)を携帯しているようなら投与しましょう。
症状の軽い・重いに関わらず、食物アレルギー反応を起こしたら病院で医師による診察を受けるようにしてください。
エピペンとは
アナフィラキシーなど、重度のアレルギー反応がでた時に症状の進行を一時的に緩和させ、ショックを防ぐ補助治療剤。
注射薬だが使用時に注射針は見えておらず、安全性が高く、子どもでも使いやすい。

4種類の食物アレルギーには年齢別に発症傾向が
食物アレルギーは症状の特徴から4つの病型に分類できます。さらに、病型ごとに発症しやすい年齢など、様々な傾向がみられます。
新生児・乳児消化管アレルギー
発症が多い年齢
新生児期
主な症状
嘔吐、血便、下痢といった消化器症状。アナフィラキシーの危険性あり。
主な原因食物
牛乳
補足情報
個人差はありますが、だいたい2歳頃にはほとんど治るといわれています。
食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎
発症が多い年齢
乳児期にもっとも多くみられるタイプの食物アレルギー。
主な症状
顔からはじまり、なかなか治らない湿疹が特徴。アナフィラキシーの危険もあり。
主な原因食物
鶏卵・牛乳・小麦・大豆など
補足情報
アトピー性皮膚炎は食物アレルギーとは別のアレルギー性疾患ですが、乳幼児のアトピー性皮膚炎の場合、食物が原因で症状が悪化することがあります。
食物アレルギーであれば、多くの子どもは成長とともに自然と治っていきます。
即時型
発症が多い年齢
特に乳幼児期に多いが、学童期〜成人期までみられる。
主な症状
一番多いのは皮膚症状。呼吸器、消化器など非常に多種類なアナフィラキシーを発症させる可能性も。
主な原因食物
乳児では3大アレルゲンである鶏卵、牛乳、小麦が多い。学童期以降は甲殻類や果物類など、非常に多品目の食物が原因食物となる。
補足情報
15〜30分後、遅くとも2時間以内には症状があらわれます。
特殊型
《食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FEIAn/FDEIA)》
発症が多い年齢
学童期〜成人期
主な症状
アナフィラキシー
主な原因食物
小麦、甲殻類など
補足情報
アレルギーの発症条件は、原因物質を食べてから運動すること。原因食物を食べても運動さえしなければアレルギー症状はでません。
《口腔アレルギー症候群(OAS)》
発症が多い年齢
学童期〜成人期
主な症状
口の中が腫れる・イガイガする。アナフィラキシーの危険度は低い。
主な原因食物
果物類、野菜類など
補足情報
花粉症と関わりがあり、アレルギーの発症条件は体内で、花粉と関連する果物や野菜が反応することで起こります。
食物アレルギー症状がでるまでの時間は15分〜数日後まで様々
食物アレルギーにはアレルゲンが体内に入ってからすぐに症状があらわれるものから、数日経ってからあらわれるものまで様々です。
アレルゲンが体内に入り、15分〜2時間以内に症状があらわれた場合は即時型食物アレルギー、6〜8時間後に症状があらわれた場合は遅発型食物アレルギーであるといえます。
また、数日後に症状があらわれるものを遅延型食物アレルギーといいます。
即時型の場合は、皮膚、呼吸器、消化器などに多彩な症状があらわれる上、発症までの時間が短いので原因食物を食べてから症状がでたというのが分かりやすくなります。
遅延型の場合、症状があらわれるまでに時間がかかる上に、症状も肌荒れ・ストレス・倦怠感など、日常の中でも起こりうる症状が多いため、食物アレルギーであることを見落としてしまう可能性があります。また、症状も重症でなければ、症状をそのままにしてしまう人も少なくありません。
原因不明の疲れやイライラは、もしかしたら食物アレルギーかもしれません。不安があれば、一度病院で検査をしてみるのもいいでしょう。

アレルギー反応がでたら病院で検査をし、治療を開始しましょう
食物アレルギー患者にとって最も重要なことは自分のアレルゲンは何なのかを知ることです。
アレルゲンを特定して再び危険な症状がおきないように、または未然に防げるようにしましょう。
確定診断にも使われる食物経口負荷試験による検査
検査でまず重要なのは問診です。
■食べたものは何か
■食べた量はどのぐらいか
■食物を食べてから症状が出るまでにかかった時間は
■症状の様子
問診を元に、専門医が食物アレルギーの原因を予測します。
その後、食物経口負荷試験による検査を行います。
検査内容は、実際に食物を食べてもらい、症状の経過を観察すること。食物アレルギーにおいてもっとも信頼性のおける検査です。
細かな試験方法は病院によって異なりますが、ごく少量から食べはじめ、15〜20分ごとに少しずつ量を増やしながら食べていきます。
この検査により、どの食物にアレルギー反応を起こすのか、どのぐらいなら原因食物を食べても大丈夫かなど、患者とアレルゲンに対する様々な関係性が分かるようになります。
実際に原因食物を食べてもらうということで、症状が発症する可能性もあります。
食物経口試験をおこなうにはアレルギーの診療を専門にしている医師がいる医療機関であり、緊急処置に対応ができる施設でおこなうことが重要です。
他にも食物経口試験を補う検査として、血液を調べる特異的IgE抗体検査、ヒスタミン遊離試験、アレルゲンを皮膚につけてみて反応をみる皮膚プリックテスト(スクラッチテスト)、実際に症状がでた時に、原因食物だと疑われるものを数週間食べないようにして、症状がおさまるかどうかを見る食物除去試験などがあります。
食物アレルギーにはすぐに症状があらわれる即時型と、数時間経ってあらわれる遅発型、数日経ってあらわれる遅延型がある。この違いによって検査の種類やかかる費用も様々。赤ちゃんから大人まで、参考にできる食物アレルギー検査のあれこれをご紹介!
遅延型の食物アレルギーは自宅で検査も可能
食物アレルギーによる激しい症状が出ていなければ、検査キットを使ってアレルギー原因を検査をすることもできます。
指先からごく少量の血液を採血し、その検体を郵送したらあとは結果を待つだけの簡単なものです。
症状が出ていない状態で病院へ行く遅延型の食物アレルギー検査は、栄養療法の検査になってしまうため、保険適用にならいない自費診療になってしまいます。
病院での検査費用が保険適用を受けられるかどうかは、病気の症状がでていることが基準となるためです。
費用が安く手軽におこなえるという点からも検査キットを使うことも1つの方法だといえるでしょう。
アレルゲンの除去が最大の治療
食物アレルギーで、湿疹やかゆみ、発作などの症状がでてしまったら、症状をおさえるために抗ヒスタミン薬(飲み薬)を飲むことがあります。
アナフィラキシーショックなどに対しては、アドレナリン自己注射薬(エピペン)を打つなどして対応します。
ただし、薬による治療は食物アレルギー反応を起こさないようにする治療ではないため、根本的な解決にはなりません。
食物アレルギーの一番の治療であり対策は、食事を摂る際に原因食物の除去をすることです。
しかし、原因食物の除去の程度や期間は人それぞれであり、食事の栄養バランスを崩しかねないので正しい指導と注意が必要になります。
■食べると症状が誘発される食物だけを除去する
■原因食物でも食べられる範囲までは食べる
症状を心配して、必要以上に栄養素を除去してしまうと栄養バランスを崩すことに繋がります。
また、原因食物の除去により摂ることのできない食物の栄養は、別の食品で同じ栄養を補うなどしましょう。
食物アレルギーは長く付き合っていかないといけない場合も
乳幼児期の食物アレルギーの場合、一般的には成長と共に治りやすいものであるとされています。
成長と共にアレルゲンであるタンパク質を分解する消化機能も育ち、耐性ができてくることが考えられるからです。
乳幼児期に食物アレルギーを持っていた場合、成長にともないアレルギーに耐性ができているかどうか定期的に検査をし、医師に判断をしてもらうようにしましょう。
学童期から成人期になって初めてあらわれた食物アレルギーに関しては、治りにくいとされており、長く付き合っていかなくてはいけない場合も少なくありません。
普段からしっかり対策をとり、食物アレルギーによる症状の発症を防ぐ必要があります。

おわりに 〜食品の容器や包装の原材料表示に注目を〜
普段、商店街やスーパーマーケットで食材を購入する際に、鮮度や値段など、様々なことを気にしながら購入をしていると思います。
食物アレルギーに関していえば、買い物の際に食品の容器や包装に表示されている原材料表示に注目をしてください。
原材料表示は、アナフィラキシーショックのような重症状を起こす可能性のある7種類の特定原材料が使用されていれば表示されています。
また、特定原材料に準ずるものも表示を推奨されているので、多種のアレルゲンを原材料表示から確認することができます。
一見、アレルゲンが入っていなさそうな加工食品が世の中にはたくさんあります。
アレルゲンが入っているのを知らなかった、気付かなかったでは済まされないほどの重篤症状になったり、命を脅かされる場合もあるのです。
日常生活の中から対策をすることで、食物アレルギーに対する被害をできる限り防いでいきたいものですね。