はじめに ~あざがあり出血しやすくなったら要注意~
紫斑病(しはんびょう)とは、皮膚の下や消化器の粘膜下などの毛細血管が切れて内出血が起こり、「紫斑(あざ)」が現れる病気の総称ですが、紫斑病にはいくつかの種類があります。
比較的子どもに多く、成人に少ないのは、「アレルギー性紫斑病(血管性紫斑病)」で、全身の毛細血管がアレルギー反応のため炎症を起こし、出血しやすくなる病気で、2~10歳の小児に最も多い紫斑病です。
一方、特発性血小板減少性紫斑病(とくはつせいけっしょうばげんしょうせいしはんびょう)は、血液を固める働きをしている血小板が減少し、出血しやすくなる病気です。
子どもにもかかりますが大人にも多く見られ、国が指定する難病(特定疾患)の対象になっています。
どこかにふつけてもいないのに手足にあざができたり、出血しやすくなる場合、紫斑病の可能性があります。
重症化するケースも多いため、基礎知識を知っておきましょう。
今回は「特発性血小板減少性紫斑病」の症状から対処法までのポイントを解説します。
<目次>
特発性血小板減少性紫斑病の原因
特発性血小板減少性紫斑病(ITP:Idiopathic thrombocytopenic purpura)は、血液を固める働きをしている血小板の数が減少し、出血症状をひき起こす病気です。
明らかな基礎疾患や、原因となる薬剤などの関与がなく起こります。
血小板以外の赤血球や白血球には異常はみられません。
発症のきっかけは、子どもの場合、感染症にかかった後に起こりやすいのですが、成人については明らかではありません。
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、免疫システムに異常が起きることによる「自己免疫疾患」とされています。
通常は、体内にある抗体が、外から侵入してくる細菌やウイルスなどを攻撃しますが、免疫の異常により、脾臓(ひぞう)で自分の血小板を破壊してしまい、血小板の数が減ってしまうことにより発症すると考えられています。
なぜこのような免疫異常が起きるのかは明らかにされていません。
特発性血小板減少性紫斑病の「急性型」と「慢性型」について
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は、病気が起こってから6ヶ月を目安に「急性型」と「慢性型」に分類されます。
ITPの「急性型」と「慢性型」の特徴
急性型 | 慢性型 | |
発症の仕方 | 急激に発症 | 徐々に発症 |
好発年齢 | 2~5歳 | 20~40歳・60~80歳 |
男女比 | 1:1 | 1:3(高齢者は差なし) |
先行事象 | ウイルス感染・予防接種 | 特になし・不明 |
経過 | 6ヶ月以内に回復(寛解) | 6ヶ月以上持続 |
特発性血小板減少性紫斑病の小児と成人の違い
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は子どもと大人では以下の違いがあります。
小児=急性型が多い
小児ITPでは、急性型が約75~80%を占め、ウイルス感染や予防接種がきっかけとなる場合が多く認められています。
大部分が急性型で、慢性型に移行するものは10%程度です。
数週~6ヶ月以内に、自然に血小板数が正常に戻ることが多いです。
成人=慢性型が多い
成人ITPでは慢性型が多く、6ヵ月以上血小板減少が持続します。
原因は特定できないことがほとんどで、発症の時期も不明なことが多いです。
特に20~40代にピークがあり女性に多く見られますが、60~80代にも多く認められているため、成人は幅広い年齢で注意が必要です。
※特発性血小板減少性紫斑病は、発症時に急性型か慢性型かを区別することは難しく、治療法も状態により様々のため、発症後6ヵ月を経過した時点で分類することになります。
特発性血小板減少性紫斑病の症状
血小板数が減ると、出血しやすくなり、出血が止まりにくくなります。
出血症状に気づかず、健診などの血液検査で、血小板の減少を指摘されることもあります。
一般的に出血傾向が明らかになるのは、血小板数5万/μL以下で、1~2万/μL以下に減少すると、以下の症状が現れます。
- 皮膚に点状や斑状の皮下出血
- 歯肉からの出血
- 鼻血
- 下血、黒い便
- 血尿、紅茶のような色の尿
- 外傷による出血が止まりにくい
- 月経過多、生理が止まりにくい
- 重症な場合は脳出血
これらは特に誘因がなく起こることが多く、軽い力でも出血しやすくなります。
この様な場合には、すぐに受診する必要があります。
特発性血小板減少性紫斑病の治療法
小児に多い急性型の場合や、出血傾向が軽度の場合は、ほとんどは特に治療をしなくても自然に軽快するため、外来で経過観察をします。
成人に多い慢性型の治療には、以下のような治療の流れがあります。
■ピロリ菌除去療法 ↓ ■副腎皮質ステロイド療法 ↓ ■脾臓摘出術(ひぞうてきしゅつじゅつ) ↓ ■他の薬物治療 |
治療法として、まずピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の除菌療法があります。
ITPの患者さんでピロリ菌が陽性の場合、ピロリ菌の除菌を行うと半数以上の患者さんで血小板数が増加することが分かっています。
そのため陽性の場合は、まず除菌療法を行なうことが薦められています。
現在ITPの治療法として、ピロリ菌の除菌療法が保険適用(平成22年度より)となっています。
ピロリ菌が陰性の場合と、陽性で除菌効果が無い場合は、次に副腎皮質ステロイド療法を行います。
ステロイド療法は最も一般的な治療法で、免疫を抑制する作用があり、約8割の方で血小板が増えますが、長期間飲み続けることが必要なため、副作用も報告されています。
状態によりステロイドを減量するなどし、維持量を継続します。
その間、副作用で継続できなかったり効果が不十分の場合は、脾臓(ひぞう)取り除く手術「脾臓摘出術」を行います。
脾臓摘出が困難な場合や、摘出しても効果が得られない場合は、他の薬物療法を行います。
このように治療については、血小板の数を正常に戻すことだけが目標ではなく、危険な出血を防ぐことが重要なため、薬の使用や量、治療方法については慎重に行います。
特発性血小板減少性紫斑病の日常生活の注意点
血小板性紫斑病は、普段は血小板が安定していても、風邪などウイルス感染や細菌感染を機に、出血症状が悪化する場合があります。
普段の日常生活には大きな制限はありませんが、以下のことに注意しましょう。
- 皮膚の点状出血(あざ)や歯ぐきの出血、鼻血など出血がある場合は、主治医に連絡する
- 鎮痛剤、解熱剤は種類によって、血小板の機能を弱めることもあるため、なるべく服用を避ける
- 歯科治療など出血を伴うものや、胃カメラなどの検査を受ける予定があるときは、事前に主治医に連絡する
- 打撲をするような激しいスポーツ(サッカー、剣道、柔道、スキー、スノーボードなど)は避けるようにする
特に慢性型は、長期間の治療と経過観察が必要なため、治療中は、日頃から自分自身で全身状態を観察することと、出血が増悪しないための注意が大切です。
おわりに
特発性血小板性紫斑病は、血症板の数が減る代表的な病気ですが、その原因は明確にはなっていないため、誰にでも起きる可能性があります。
特に慢性化の場合、徐々に発症し気づきにくいことが多いため、出血時の兆候を知っておき、身体の異変が見られたら放置しないことが大切です。
また、子どもに多く発症する「アレルギー性紫斑病(血管性紫斑病)」の記事もありますので、参考にご覧ください。
関連記事:アレルギー性紫斑病(血管性紫斑病)とは?小児に多い紫斑病の原因・症状・治療法・注意点)
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