動悸・めまい・息切れ… 誰もが感じる不安

大事な試合や試験の前に緊張する。不安になって眠れない。心臓がドキドキして汗が止まらない…。
不安や緊張は、誰でも感じる正常な反応です。そんな心の反応も、緊張や不安になる原因が過ぎてしまうと通常は解消されるもの。緊張や不安になる対象や原因がないのに、動悸、息切れ、心拍数の増加、めまいなど日常生活に支障がでてしまうほどの不安を常に感じる場合、「不安障害」となります。

不安障害とは

不安障害は、20代〜40代にかけて年齢が高くなるとともに発症者の割合は高くなっています。神経質・生真面目・面倒見がいい・こだわりが強いなどの性格や、向上心があり常に完璧を求める人に多く発症するといわれています。

不安障害は、精神疾患の中でも最も多くみられる症状で、アメリカの成人では、およそ15パーセントもの人が不安障害であるとされています。しかし、本人の自覚がない場合も多く治療に至らないことがほとんどです。

不安自体は誰にでもある感情。通常の不安とは違い、不安障害につながる「治療が必要な不安」には、以下の4つの特徴があります。

◼︎不安になる理由がはっきりしない
◼︎不安になる状況を言葉で説明できない
◼︎他人にわかってもらえない
◼︎不安の状態を繰り返す・長く続く


上記に当てはまる不安症状を覚える場合、一度専門機関の診断を受けてみましょう。

不安障害の原因

不安障害の原因は完全には解明されていません。
環境の変化や人間関係の悪化などによる精神的ストレス、病気や薬物の使用による身体的要因が関わっていると考えられています。
また不安障害は家族の中で多発する傾向があることから、遺伝も一因になりうるともいわれています。

◼︎呼び名の変更

アメリカ精神医学会が発行している世界的な精神新刊の診断基準DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Distorders)に基づき、2014年から精神疾患の診断名が変更になりました。
「不安障害」は「不安症」、「パニック障害」は「パニック症」に変更されます。また、パニック障害の一症状とされていた「広場恐怖」は病気として独立し、「広場恐怖症」とされます。名称の移行にあたり、当面は旧名と新名を並行して使用されています。

不安障害の症状は、その名の通り「不安」!

不安障害の主な症状は、その名の通り「不安」です。不安は、精神的な症状と身体的な症状を引き起こします。

精神的症状:不安、不眠、イライラ、緊張、混乱、うつ・抑うつなど

身体的症状:動悸、息切れ、めまい、しびれ、腹痛、下痢など

症状が悪化すると、いろいろな場面で日常生活に影響がではじめます。外出ができなくなったり、人前で発言できなくなったり、社会で生活を送ることが困難になってきます。

うつ病の約4割が不安障害を併発!

うつ病は様々な精神疾患を併発しやすい病気です。
特に不安障害は、併発率の高い症状になります。アメリカで行われた調査では、うつ病と診断された方の約4割が、「不安障害がある・以前にかかったことがある」と認められたという報告があります。さらに、不安障害が何らかの気分障害を併発する頻度は約7割と、非常に高確率になることが明らかになりました。

不安障害が引き起こす様々な疾患

不安障害は、精神疾患の中でも不安が原因となって起こる疾患の総称です。
不安が引き起こす精神疾患は様々ありますが、ここでは代表的な疾患をご紹介します。

社会不安障害

人前で話すのが苦手、人前で震えて字が書けない、電話にでるのが怖い…

社会的状況に異常なほどの緊張や不安を覚え、会社や学校などでの社会生活に影響が出る症状が「社会不安障害」です。「内向的」「人見知り」などの性格とは関係なく、赤面・発汗・どもり・動悸・めまいなどの身体的症状が持続します。

日本国内では、診断を受けていない方を含めると、患者数はなんと300万人にのぼるといわれています。中学に入学する頃の10代半ばでの発症が最も多く、20代前半までには発症されるといわれています。

アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association)が制作している精神疾患の診断ガイドラインでは、人前での行動・不安や恐怖が継続する期間などを社会不安障害の診断基準として定めています。
診断基準について詳しくはガイドラインをご参照ください。

◼︎家族や周りの方々の対応について

社会不安障害では、強い不安や緊張を感じる場面は主に社会生活の中にあります。
家族や親しい友人の間では不安を覚えることが少ないため、周りにいる人にとっては、やればできると無理強いしてしまうことがあるかもしれません。しかし、周りが思う以上に、本人は大きな苦しみを持っていることを理解することが必要です。

全般性不安障害

落ち着きがない、疲れやすい、集中できない、友達や学校のことが気になって不安になる…
全般性不安障害では、理由のない不安が継続して続き、精神と身体に症状が現れる病気です。
全般性障害では、特定の不安や心配ごとが原因になるわけではなく、学校・仕事・家庭などあらゆる生活上のストレスが原因となるとされています。また、心理的な要因だけでなく、何らかの要因で不安を緩和する神経伝達物質の組織に欠陥が出ることにより、不安をコントロールすることができなくなり発症するともいわれています。

身体的症状としては、頭痛・身体の悪寒や熱感・全身で脈拍を感じる・便秘や頻尿などがあげられます。

通常は、10代半ばから発症するとされていますが、大人も子供も年齢問わず発症する可能性があり、男性より女性が発症する可能性が高い病気です。

 

パニック障害

動悸がする、汗が吹き出る、身体が震える、胸が痛い、恐怖を感じる…

身体的理由もなく、突然激しい不安に襲われ、身体に異変が現れる反応を「パニック発作」と呼び、パニック発作が繰り返される症状を「パニック障害」といいます。パニック発作の身体的症状は、それほど長くは続かず、10分以内にピークを向かえて1時間以内にはおさまります。

◼︎パニック発作の症状

パニック発作では、一つの症状が継続してあらわれるというよりは、様々な症状が同時に短時間にあらわれます。

《パニック発作の症状の例》
・動悸が激しくなる
・汗をかく
・からだや手足が震える
・息切れ
・窒息感・胸部の不快感を覚える
・吐き気や腹痛
・めまいやふらつきを覚える
・このまま死んでしまうのではないかと思う恐怖・自分が自分でないような感覚に陥る

◼︎パニック発作が起きたら

パニック発作が起きたら、落ち着くために楽な姿勢をとりましょう。うつ伏せや椅子に座り前かがみの体勢をとることで、自然と腹式呼吸になり自律神経が安定しやすくなります。
周りの人がパニック発作を起こしたら、一緒になって慌ててしまわないことがとても大切です。背中をさすってあげながら優しく声をかけましょう。

広場恐怖(症)

広場恐怖では、パニック発作の症状へ恐怖や不安から、以前パニック発作が起こった場所や状況を避ける状態になることです。特に、バス、電車、人混み、エレベーターーなど、逃げたくても逃げられない場所や頼れる人がいない場所などを避けることが多く見られます。

広場恐怖が重症になると、一人で外出することが困難になり、家族や友人の付き添いが必要になってきます。

パニック障害では、約75パーセントの人が広場恐怖(症)を併発します。どちらが先に発症するかは明確ではなく、パニック障害を発症してから広場恐怖を発症する場合やその逆もあります。また、広場恐怖(症)を発症してもパニック障害を発症しないケースもあります。

強迫性障害

手が汚れていると感じ何度も洗う、鍵を閉め忘れていないか何度も確認する…

強迫性障害では、自分でも意味のないことだとわかっていても、繰り返さないと不安が抑えられなくなる「強迫観念」と、強迫観念を打ち消そうとして無意味な行動を繰り返てしまう「強迫行為」があります。
手を過剰に洗う、戸締まりや火の元の確認を繰り返す、特定の数字にこだわる、などの「強迫行為」がエスカレートすると、外出することが困難になり。日常生活に支障がではじめます。

なお、2014年の精神疾患の診断基準DSMの改訂で、不安障害の一症状からは外れています。特別なきっかけはなく発症し、うつ病を併発している人が約3割、不安障害やパニック障害を併発している場合が約1割近くいるとされています。

不安障害は克服できる疾患です

不安障害の治療は、薬物療法とカウンセリングが主になります。不安障害の種類に応じて、薬物療法とカウンセリングを併用して病気の克服を目指します。

薬物療法

薬の効果や副作用に対する不安は誰しもが感じるものです。特に、不安障害の患者の場合、薬の副作用に対する不安が強く現れる傾向がみられます。
その反面、他の精神疾患に比べると、投薬(薬としての成分は含まれていない偽薬)により安心感を得て治癒につなげる「プラセーボ効果」が非常に高いとされています。
プラセーボ効果への反応は、うつ病や統合失調症が30〜40パーセントであることに対して、不安障害ではなんと80パーセント以上の効果がみられたという報告もあります。
医師との信頼関係の元に、患者が治療計画をしっかり理解して薬を積極的に服用することで、プラセーボ効果は高くなります。

薬では、抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬などが使用されます。不安障害の種類によって、薬の種類が異なるため、正確な症状の診断が大切になります。

《主な抗不安薬》

症状 用途 主な副作用
ベンゾジアゼビン系 全般性不安障害、パニック障害、恐怖性障害 眠気、協調運動障害、薬物依存の可能性
ブスピロン 全般性不安障害 めまい、頭痛
抗うつ薬 全般性不安障害、パニック障害、恐怖性障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害 気分障害

参考:メルクマニュアル医学百科

カウンセリング(認知行動療法)

カウンセリング(認知行動療法)では、苦手なものや場所、状況に少しずつ少しずつ慣らしていきます。不安や緊張・恐怖を減らしながら、自信の回復につなげていきます。

症状や程度により異なりますが、基本的に以下のような手順を行なっていきます。

《認知行動療法の手順》

◼︎不安の原因となる状態・理由を理解する

◼︎心をリラックスさせる練習を繰り返す

◼︎不安を生み出す原因に対して「認知」を変えていく

◼︎不安の原因になるために回避していることに、直面していく

漢方による治療

薬物療法による治療に抵抗がある方には、漢方の有効活用も治療の選択肢の一つになります。
漢方の考え方では「気・血・水(き・けつ・すい)」の3つの要素がバランスを崩すと心身に不調があらわれるとされています。不安障害では、「気」の流れの不調が原因となり様々な症状を引き起こしていると考えられています。漢方を用いて気の流れを整えることで治療に効果があらわれます。

《不安障害に用いられる主な漢方薬》

◼︎半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)
◼︎茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)
◼︎柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
◼︎抑肝散(よくかんさん)など

不安障害治療の気になるQ&A

Q:子供の不安障害はどう対応すればいいですか?

A:子供の不安障害では、体の不調を理由に学校への登校を拒む傾向があります。しかし、決して嘘をついているわけではありません。子供の場合、不安や緊張などの心的要因により、お腹が痛くなったり頭が痛くなったり身体的症状が現れやすくなります。不安障害の症状が進行する前に早期に治療を行うことで、薬を使わずに行動療法のみでの治療を行うことが可能です。
学校に行きたがらないことが続く場合は、早めに専門機関に相談しましょう。

Q:家族や友人が発症した場合、周囲はどういう対応をすればいいですか?

A:病気を理解し、温かい気持ちで支えてあげることが大切です。不安障害の患者が抱える不安は、病気ではない人からすると、大したことではないと感じられるかもしれません。しかし、不安や緊張の症状が続くことにより身体にも大きな負担が長く続いていることをしっかり理解して支えてあげましょう。

Q:不安障害は治りますか?

A:
不安障害は、「性格のせい」や「治らないもの」と誤解されやすいですが、実際は、神経伝達神経のバランスの乱れで不安を感じやすくなるなど、身体的な要因も明らかにされています。
専門機関で正しい診断を受け「薬物療法」と「カウンセリング」を組み合わせて適切な治療を行うことが最も大切です。

Q:不安障害になっても仕事はできますか?

A:不安障害を発症しながら仕事を行う場合は、症状を悪化させないように最大限の注意が必要です。
不安障害の症状を自分でもしっかりと理解し、できる限り職場でも病気について理解してもらいましょう。職場の全員に伝えることは難しいかもしれませんが、頼れる人が一人でもいるだけで、不安は薄らぎます。

症状が重く進行していく場合や、仕事が明らかに症状を悪化させている原因になる場合、休職することも選択肢の一つとなります。無理を続けて症状を悪化させるよりも、ある期間は治療に専念し症状が改善してから仕事に復帰する方が、長期で考えると本人にとって良い場合が多くあります。
具体的な治療については医師としっかり相談してください。

おわりに

現代の社会では、ストレスを完全に取り除いて生活をすることはとても難しいことです。また、社会生活では、何かしら不安や緊張を覚えることが日常的にあることでしょう。
しかし、原因もないのに不安や緊張に襲われる…。激しい不安でめまいがする…。など、いつもと違う不安や緊張に襲われたら。
不安障害では、正しい診断を受けて適切な治療を行うことが治療のカギとなります。我慢せずに早めに専門機関に相談しましょう。

 

image by photo AC
image by photo AC
image by photo AC
image by photo AC
image by photo AC