花粉症やアレルギー性鼻炎などの治療に使用する抗ヒスタミン薬に、2016年11月、2種類の新薬が登場しました。
それが「デザレックス」と「ビラノア」です。
抗ヒスタミン薬は眠気などの副作用が問題となることが多く、眠気を避けるために薬の使用を控えてつらい症状を我慢している方も多いのではないでしょうか。
今回は、新薬「デザレックス」を中心に、効果や副作用、同時期に発売された抗ヒスタミン薬「ビラノア」との違いなどについて詳しく解説します。
デザレックスはクラリチンの後継薬
新薬デザレックスは、すでに販売・利用されている抗ヒスタミン薬「クラリチン」の後継薬という位置づけです。クラリチンは、従来の花粉症の薬のなかでも「眠気が出にくい」のが特徴でした。
クラリチンの有効成分ロラタジンは、肝臓で薬物代謝酵素(CYP3A4およびCYP2D6)で代謝され、デスロラタジンに変化してから効果を発揮する成分です。
このデスロラタジンが利用されているのが新薬デザレックスで、「肝臓での代謝」という過程がすでに省かれているため、クラリチンよりも速く効くのが特徴です。
また、肝臓の薬物代謝酵素の働きには個人差があり、薬の効き目(速さや強さ)を左右してしまう弱点がありました。しかし、デザレックスは薬物代謝酵素の影響を受ける心配もないため、クラリチンよりも高い効果が期待できます。
デザレックスが花粉症に効くしくみ
さまざまなアレルギーの原因となる化学物質ヒスタミン。ヒスタミンはヒスタミンH1受容体に結びつくことで、くしゃみや鼻水、眼のかゆみなどのアレルギー症状を引き起こします。
デザレックスの有効成分デスロラタジンは、数種類あるヒスタミン受容体の中でもH1受容体だけを選んで結びつき、ヒスタミンをブロックする働きがあります。
ヒスタミンがブロックされると、体の中に花粉などのアレルギー物質が入っても脳や各器官に情報が伝達されず、反応が起こりません。その結果、くしゃみや鼻水、目のかゆみ、咳や喘息といったアレルギー症状が抑えられます。
【デザレックスの効能・効果】
アレルギー性鼻炎、蕁麻疹、皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、皮膚そう痒症)に伴うそう痒
デザレックスについて製薬会社が行った国内での臨床試験では、くしゃみ発作、鼻汁、鼻づまり、鼻のむずむず感など、季節性アレルギー性鼻炎の各症状が軽減したとの報告があります。
また、慢性蕁麻疹においても痒みや発斑に効果を発揮し、湿疹や皮膚炎などのかゆみも軽減するなど、効果が認められています。
デザレックスは眠くなりにくい!
仕事や勉強に集中したいけど、花粉症の症状で集中できない。でも、薬を飲んで眠くなるのも困る。車も運転するし・・・。
こんな悩みを抱えている方におすすめの薬がデザレックスです。
ヒスタミンは、アレルギーを引き起こすだけでなく、脳を覚醒する働きもあります。このため、ヒスタミン受容体の働きを強力に遮断すれば、アレルギー反応が抑えられられる一方で、眠気などの副作用が出やすくなるというのが、従来の抗ヒスタミン薬の問題点でした。
デザレックスの有効成分では、限られた受容体(ヒスタミンH1受容体)だけを選択的にブロックする働きを強化。眠気をはじめ、口の渇きや胃腸の不調など、副作用の軽減につながりました。車などの運転操作の前でも使用できる薬です。
デザレックスの注意点
薬には効能効果といったメリットの他に、副作用をはじめ、使用するうえで注意することがあります。薬を安全に、かつ効果を最大限に利用するために、次のことに気をつけてください。
デザレックスの副作用
デザレックスのアレルギー性鼻炎や慢性蕁麻疹を対象とした国内の臨床試験において、副作用の発現率は4.0%(505例中20例)でした。
主な副作用として、眠くなりやすい(1.0%)、白血球数の増加(0.6%)、血中コレステロールの増加(0.4%)などがありますが、いずれもとても低い数値で、「デザレックスは副作用が起こりにくい」といっていいでしょう。
重篤な副作用はめったに起こりませんが、ショック、アナフィラキシー、てんかん、痙攣、肝機能障害、黄疸などを引き起こす可能性があります。
デザレックス服用後に体調の変化を感じた場合はすぐに医療機関を受診して、使用している薬剤名を医師に伝えて指示をあおいでください。
デザレックスは妊娠中に使える?
デザレックスは妊娠中の使用に関する安全性は確立していません。妊婦または妊娠している可能性のある方は使用を避けることが望ましいとされています。
また授乳中も、デザレックスの使用は控えてください。診断の際に必ず医師に授乳中である旨を伝えてください。
デザレックスとの併用に注意する薬
デザレックスは、抗生物質のエリスロマイシンと併用すると薬剤の血中濃度が変化する恐れがあるため、エリスロマイシンとの併用には注意が必要です。
その他にも日常的に使用している薬がある場合は、診察の際に医師に伝えて相談してください。
デザレックスとビラノアの違いは?
ビラノアは、デザレックスと同じ時期(2016年11月)に発売された新しい抗ヒスタミン薬です。
有効成分はビラスチンで、デザレックスの有効成分(デスロラタジン)と同様にヒスタミンH1受容体を選択的にブロックし、抗アレルギー作用を発揮します。眠気の副作用が少ない点も、デザレックスと同じです。
この部分だけを比較すると、デザレックスとビラノアは同じような薬に見えます。しかし、実際に使用する際に重要な「対象年齢」と「服用のタイミング」、そして「薬価」にも大きな違いがあります。
デザレックスとビラノアは用法・用量が違う!
デザレックスは、1日1回、12歳以上から使用できます。食べ物や飲み物など、食事の影響を受けずに効果を発揮するので、薬を使用するタイミングは食前でも食後でも、いつでもかまいません。
一方のビラノアは、子供は使用できません。服用のタイミングも空腹時(食後2時間ほど経ってから、次の食事の1時間ほど前まで)と決められています。食後の使用やグレープフルーツジュースの飲用で有効成分の血中濃度が低下するなど、食事の影響を受けやすい薬なのです。
これらのことから、いつでも手軽に使用するなら「デザレックス」、使用のタイミングに条件はあっても、効き目優先でしっかりと効果を得たいなら「ビラノア」という選び方ができそうです。
デザレックス | ビラノア | |
対象年齢 | 12歳以上の小児および成人 | 成人 |
服用回数 | 1日1回 | 1日1回 |
服用タイミング | いつでも使用できる | 空腹時に使用する |
食事の影響 | ほとんど受けない | 食後は成分の血中濃度が低下 |
食べ合わせ注意 | 特になし | グレープフルーツジュース |
デザレックスとビラノアは薬価も違う!
新薬のデザレックスとビラノア、それぞれ1錠あたりの薬価は次の通りです。
・デザレックス錠5mg:69.4円
・ビラノア錠20mg:79.7円
どちらも1日1回1錠ずつ使用する薬なので、1錠あたりの差が1日の差となります。デザレックスの方が約10円安いわけですが、花粉症など長期間に渡って薬を飲み続ける場合は、差額がどんどん大きくなります。
ちなみに、デザレックスと成分が似ていて先に販売されたクラリチン錠10mgの薬価は86.7円。デザレックスは効き目とともに薬価も改良されたようです。
ただし、デザレックスとビラノアは新医薬品であるため、最長でも14日分の処方が限度です。継続的に使用する場合は、何度か通院することになります。
1錠あたりの薬価 | 1か月(30日)の薬価 | |
デザレックス錠5mg | 69.4円 | 2082円 |
ビラノア錠20mg | 79.7円 | 2391円 |
クラリチン錠10mg | 86.7円 | 2601円 |
※薬価は2017年2月現在のものです。
なお、いずれの薬も処方薬なので、薬価のほかに病院での診察代や処方料、調剤料が加算されます。
デザレックスやビラノアの詳しい情報は、ミナカラお薬辞典をごらんください。
お薬辞典:デザレックス錠5mg(処方薬)、ビラノア錠20mg(処方薬)
おわりに
いまや「国民病」ともいわれる花粉症ですが、治療薬も年々進化・改良され、有効性や安全性のバランスがとれた薬が増えてきています。それとともに、自分の症状や使い勝手に合わせて薬を選択できる幅も広がり、つらい症状を我慢せず治療に向き合えるのは嬉しいことです。
いずれにしても、薬の特徴や副作用についてよく知り、しっかりと医師に相談したうえで治療方法を決めることが大切です。花粉症の時期は数か月にもおよびます。少しでも快適に生活できるよう、予防も心がけてください。