はじめに ~乳児から高齢者まで後を絶たない食べものによる窒息~
毎年多くの人が救急搬送される、食べものをのどに詰まらせる窒息事故。
特に高齢者がお正月にお餅をのどに詰まらせて亡くなる事故は毎年必ず起きていま
す。
お正月に限らず、高齢者は、嚥下(えんげ)機能が低下しており、さらに咀嚼力の低下から食べものを大きな塊のまま飲み込むことで窒息に至ることがあります。
一方で、小さな子どもは手にしたものを何でも口に入れてしまいます。
乳幼児では、ナッツやあめ、ぶどう、こんにゃくゼリーなどの食べ物のほかにボタン電池、医薬品や硬貨などあらゆるものが窒息、または中毒の原因となります。
また、小さな子どもは咳をする力が弱く、食べ物がのどに詰まりそうになったときに咳で押し返すこと(咳反射)がまだ上手にできません。
次のような食べ物は窒息の原因になりやすいので注意しましょう。
丸くツルツルしているもの |
・プチトマト ・ブドウ ・こんにゃく ・ソーセージ ・白玉団子 ・あめ ・ピーナッツ など |
粘り気があり、唾液を吸収するもの |
・もち ・ごはん ・パン ・カステラ ・せんべい など |
かたくて噛み切りにくいもの |
・りんご ・イカ ・肉類 ・生のニンジン など |
物がのどに詰まることによる窒息状態になった場合、応急処置の方法を知っておくことはとても大切です。
いざという時に知っておきたい「ハイムリッヒ法」と「背部叩打法(はいぶこうだほう)」を紹介します。
のどに物が詰まった時の応急処置の方法
本人が激しく咳き込んでいる時は、そのまま咳を続けさせましょう。
声が出せない、咳ができない、十分に呼吸ができない、といった症状がある場合は、以下の方法で異物を吐き出させる応急処置をします。
ハイムリッヒ法(腹部突き上げ法)
ハイムリッヒ法はハイムリック法、腹部突き上げ法、上腹部圧迫法とも呼ばれます。みぞおちを締め上げることで肺から息が漏れ出ようとする流れをつくり、のどに詰まった食べ物を口の外に押し出すイメージです。
ハイムリッヒ法は嘔吐を誘発することがあります。
嘔吐によって異物が除去されることはありますが,嘔吐があったからといって必ずしも気道が開通したとは限らないため、異物が確実に除去できているかしっかり確認しましょう。
異物の除去が成功し、正常な呼吸に戻った場合でもすみやかに救急外来へ搬送しましょう。
成人の場合
1 、後ろから両腕を回し抱えるようにする
2 、片手で握りこぶしを作り、みぞおちの下に当てる
3 、その上をもう一方の手で握り、両手を勢いよく上内側に向かって引っ張ることで圧迫するように突き上げる
4 、状況に応じて6~10回突き上げる。気道が確保するまで続ける
■注意点
※妊婦さん(明らかにお腹が大きい場合)に対しては、ハイムリッヒ法(腹部突き上げ法)は行わないようにします。
年長児、小児の場合
1 、こどもの後ろから両腕を回し抱えるようにする
2 、片手で握りこぶしを作り、みぞおちの下に当てる
3 、その上をもう一方の手で握り、両手を勢いよく上内側に向かって引っ張ることで圧迫するように突き上げる
4 、状況に応じて6~10回突き上げる。気道が確保するまで続ける
■注意点
※1歳未満の乳児に対しては、ハイムリッヒ法(腹部突き上げ法)は行わないようにします。
※20kg未満の小児(通常,5歳未満)への腹部の突き上げは,控えめにします。
背部叩打法(はいぶこうだほう)
妊婦さんや乳児に対しては、背部叩打法のみを行います。
横になっている、座っている、自力で立ち上がれない人の場合にも、背部叩打法を行います。
1 、救護する人はひざまずいて、対象者を自分の方に向けて側臥位(横向き)に寝かせる
2 、手の付け根で左右の肩甲骨の中間を力強く何度も連続して叩く
○背部叩打法では、座らせた状態や立たせた状態で行っても構いません。
○「ハイムリッヒ法(腹部突き上げ法)」と「背部叩打法」の両方が実施可能な状況で、どちらか一方を行っても効果のない場合は、もう一方を試みます。
乳児の場合
1、乳児を片腕の上にうつぶせに乗せる
2、手のひらで乳児の顔を支えながら、頭部が低くなるような姿勢にして突き出す
3、もう一方の手の付け根で、左右の肩甲骨の真ん中を異物が取れるまで強く叩く
■注意点
- 乳児の場合、まずは吐かせるのが基本ですが、むやみに口の中に指を入れてものを奥に押し込んでしまわないように注意しましょう。
- 食品ではなく、中毒性が高いものなどを誤飲したと思われる場合は、ものによって対処法が異なる場合があるため、直ちに救急車を呼びましょう。
意識がない場合はすぐに中止して救急車を
意識がなくなった場合は、すぐに「ハイムリッヒ法」も「背部叩打法」も中止し、急いで救急車を呼びましょう。
その間、心肺蘇生(心臓マッサージ、気道確保、人工呼吸)を行ってください。
心肺蘇生法の途中で口の中に異物が見えた場合、速やかに異物を取り除きます。その際は指で中に押し込まないよう注意します。
一連の流れを、慌てず、冷静に対処しましょう。
おわりに
目の前で食べものをのどに詰まらせて窒息しそうな場面にあった時、あわてて何もできなかったり、間違った方法では、たった数分で命を落としてしまうことがあります。
先に救急車を呼んだ場合でも、救急車が来るまでの数分の間に正しい応急処置によって救われることもあります。
いざという時のために、応急処置のやり方をシミュレーションしておくとよいでしょう。