おたふく風邪は、正式には流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)といいます。主な症状は、唾液を作る耳下腺(じかせん)からあごの下の顎下腺(がくかせん)や舌下腺(ぜっかせん)にかけて、腫れと痛みです。
両側が腫れてしまうと「おたふく」のお面のようになることからおたふく風邪と呼ばれるようになりました。
おたふく風邪はムンプスウイルスに感染することで起こります。感染者の咳やくしゃみから出た飛沫を吸い込むことや、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れることが主な感染の原因です。
おたふく風邪の症状はどんなもの?
おたふく風邪の特徴である腫れの症状は、ウイルス感染後すぐに出るわけではなく、前兆として初期症状から始まります。
おたふく風邪の初期症状
・悪寒、全身倦怠感
・微熱(熱は出ない場合がある)
・頭痛
・咳、鼻水
・食欲低下
・酸味のあるものを飲み込む際に痛みを感じる
おたふく風邪の主な症状
・耳の付け根からあごにかけての腫れ
・腫れに触れたり口を開けたときや、食べ物を噛んだり飲み込んだりするときの痛み
・39~40℃の高熱(熱は出ない場合がある)
・腹痛、下痢
初期症状に続いて12~24時間後に唾液腺が腫れ、耳の付け根から、頬、あごにかけて腫れてきます。
唾液腺などが片側だけ腫れる場合と、片側が腫れたあとに1〜2日遅れて両側が腫れる場合があります。
初期症状では微熱だったものが39~40℃の高熱まで上がることがありますが、人によっては熱が出ない場合もあります。
発熱によって頭痛や腹痛がともなうことや、ウイルスを体外に出そうとする体の働きによって下痢が出る場合もあります。
症状が出ないこともある
おたふく風邪の感染者全体のうち、30~35%は症状が現れない不顕性感染(ふけんせいかんせん)で、ムンプスウイルスに感染していても気づかない場合があります。
不顕性感染でも免疫はできますが、症状が現れないため、感染したかどうかが分かりにくいです。ムンプスウイルスに感染したかどうかは、血液中にウイルスに対する抗体があるかを検査することで判断できます。
また、不顕性感染の場合でもウイルスを放出しているため、周囲の人に感染を広げてしまうおそれがあります。
おたふく風邪の症状は子供と大人で違う?
おたふく風邪の症状は、子供に比べて大人が感染すると症状が重くなる傾向があります。
年少児ほど感染しても症状が現れない不顕性感染である確率が高く、年齢が高くなるほど症状が現れる確率が高くなります。
子供のおたふく風邪
2歳未満でおたふく風邪に感染した場合は、症状が出ない不顕性感染であることが多くあります。
子供のおたふく風邪では、難聴と無菌性髄膜炎を合併症するおそれがあるため注意が必要です。
合併症と思われる症状が出た場合は、早めに病院を再受診しましょう。
■難聴の症状
突然のめまい、耳鳴り、嘔吐などとともに耳が聞こえにくくなります。
耳が聞こえにくくなる症状の約80%は片側のみに現れます。おたふく風邪による難聴の治療法はないため、永続的な障害となってしまいます。
おたふく風邪による難聴は、聞こえにくくなるのが片方だけであることから、自覚症状が薄く、発見が遅れる危険性があります。子供がおたふく風邪を発症した場合は、片側から声をかけて確認するなど耳がきちんと聞こえているか保護者が気にかけるようにしましょう。
■無菌性髄膜炎の症状
無菌性髄膜炎の主な症状は、高熱、ひどい吐き気や頭痛、嘔吐、首が固くなるなどです。
後遺症はなく2週間程度で治ります。
大人のおたふく風邪
大人のおたふく風邪は、重症化だけでなく合併症を併発する確率も高まる傾向があります。
中学生以降におたふく風邪を発症した場合、男性の約20〜30%が睾丸炎、女性は約7%が卵巣炎を合併するという報告があります。
合併症と思われる症状が出た場合は、病院を受診しましょう。
■睾丸炎の症状
睾丸炎の主な症状は、睾丸の腫れや痛み、吐き気、嘔吐、発熱などです。
睾丸の痛みと腫れは1週間程度で改善されます。不妊の原因になることはほとんどありません。
■卵巣炎の症状
卵巣炎の主な症状は、腹痛です。
おたふく風邪で合併した卵巣炎が不妊の原因になることはほとんどありません。
おたふく風邪の経過
おたふく風邪の症状は、完治するまでに通常1〜2週間かかります。
おたふく風邪の腫れは、腫れ始めてから通常48時間以内にピークを迎え、6〜10日程度でおさまります。腫れた部分の痛みや、飲みこむときの痛みは5~7日続く傾向があります。
発熱期間は3〜4日ほどで、腫れがおさまる前に下がります。
症状をくり返す場合:おたふく風邪ではない可能性も
耳下腺が腫れる病気には、おたふく風邪と間違えやすい反復性耳下腺炎(はんぷくせいじかせんえん)があります。反復性耳下腺炎とは、何度も耳下腺の腫れをくり返す病気です。
おたふく風邪は一度感染すると抗体ができて再度発症することはないため、耳下腺の腫れをくり返す場合は反復性耳下腺炎であることが疑われます。
おたふく風邪と反復性耳下腺炎の違いには以下のようなものがあります。
おたふく風邪 | 反復性耳下腺炎 | |
年齢 | 年齢問わずだが、3〜6歳が多い | 5〜10歳 |
くり返すか | くり返さない | くり返す |
発熱 | 発熱することが多い | 発熱しないか、微熱 |
痛み | あり | ほとんどない |
耳下腺の腫れ | 両側が多いが片側の場合も | 片側のみ |
あごの下の腫れ | ともなうことが多い | なし |
ウイルス感染の有無 | あり | なし |
おわりに
おたふく風邪のときにひどい吐き気や嘔吐、腹痛などの症状が出た場合は、ほかの病気を合併しているおそれがあるため、病院を受診しましょう。
特に子供が嘔吐した場合は、耳が聞こえにくくなる難聴の症状が現れているおそれがあるため、両側の耳がきちんと聞こえているかを確認することも大切です。
おたふく風邪による合併症を起こさないためにも、おたふく風邪の症状を把握して危険を回避しましょう。